なぜ「小中高生の自殺」は過去最多を記録したのか…専門医が明かす「SNSは諸刃の剣」「生徒が伸び伸びしているのはむしろ名門進学校」という“格差社会”の現実
厚生労働省の発表によると、2024年に自殺した小学生、中学生、高校生の数は暫定値で527人。前年より14人増え、統計を取り始めた1980年以降で過去最多となった。憂慮されるのは、自殺者の総数自体は減っていることだ。日本の自殺者は2003年の3万4427人が最多であり、それ以降は基本的に右肩下がりを示している。
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2024年に自殺した人の暫定値は2万268人。前年より1569人減っており、1978年に統計を取り始めてから2番目に少ない。つまり大人の自殺は減っているにもかかわらず、子供の自殺は増えていることが分かる。担当記者が言う。
「1980年からの調査を振り返ると、自殺者は“中高年以上の男性”が中心という時代が長く続きました。自殺者数と完全失業率には相関関係が認められ、自殺者がピークに達した2003年の社会状況を見ると、直前の00年12月から02年1月まで『IT不況』と呼ばれる不景気が日本を覆っていました。結果、02年の完全失業率は5・4%、03年は5・3%という高水準に達したのです。その後は長引くデフレ不況が日本を苦しめ、現在は実質賃金の低下が問題になっています。困窮する日本人は少なくありませんが、今の日本では人手が不足しています。24年の完全失業率は2・5%で、賃金はともかく仕事はあります。これが中高年以上の男性で自殺が減っている原因だと考えられます」
一方、現在の日本は少子化が急速に進行している。先に「大人の自殺は減っているが、子供の自殺は増えている」問題を指摘したが、これは「少子化で子供の数は減っているにもかかわらず、子供の自殺は逆に増えている」ことを意味する。つまり小中高生の自殺は絶対的に増えていると考えられるのだ。
子供は“ほったらかし”の現状
精神科医の岩波明氏は「発達障害」の第一人者として知られる。昭和大学の特任教授も務め、昭和大学附属東病院では専門外来「アスペルガークリニック」を担当している。希死念慮を訴える患者の臨床経験も極めて豊富だ。
岩波医師に小中高生の自殺者が増えていることについて受け止めを聞くと、「ある意味では当然のことだと考えられます」と言う。
「なぜなら大人の自殺を減らそうという取り組みは、以前からそれなりの期間、継続的に行われてきました。ところが子供の自殺に対する対策は、全くと言っていいほど手を付けてこられなかったのです。いわば“ほったらかし”の状態だと言えます。これでは小中高生の自殺が増えることはあっても、減ることはありません」
自殺が増えている原因は何なのだろうか。岩波医師は「主な原因の一つとして、いじめと不登校の増加が挙げられます」と指摘する。
文部科学省の調査によると、2023年度に認知されたいじめの件数は小中高校、特別支援学校を合わせて73万2568件。22年度に比べて約5万件も増え、過去最悪を記録した。
さらに23年度に「全国の小中学校で30日以上欠席した不登校の状態にある子供の数」は34万6482人。22年度に比べて約4万7000人多く、こちらも11年連続で過去最悪となった。
支援の対象にならない子供
「なぜ、いじめと不登校が増え続けているのか、それは発達障害の問題も大きな影響を与えています。自殺対策と同じで、大人の発達障害にはそれなりの対策が講じられているのですが、子供のほうはそうでもないのです。集団への不適応が明白といった重症のケースや、IQが標準より非常に低い子供さんには支援の手が差し伸べられます。その一方で、軽度の発達障害が認められるケースや、問題行動がみられない子供さんは、なかなか支援の対象にならないのです」(同・岩波医師)
誰もが「発達障害だ」と気づくほど重度ではない子供が“放置”されてしまうのは、日本の教育環境に原因があるという。
「学校の先生が激務に苦しんでいることは、多くの方がご存知だと思います。担任として受け持つ子供たちの一人一人に目を届かせるだけの余裕がないのです。スクールカウンセラーの問題もあります。多くの学校では非常勤の担当者が週に1、2回、来校するというところでしょう。これでは自殺者を減らすのは厳しいと考えられます。状況を変えるには、まずクラスの少人数化が必要です。小中高で1クラスの人数を20人や15人にまで減らせば、担任が子供たちの状態をより正確に把握できるようになるはずです。スクールカウンセラーは常勤化がベストですが、さすがに予算の関係から無理かもしれません。とはいえ、最低でも週4日の勤務体系なら今と状況が変わるはずです」(同・岩波医師)
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