フジテレビのCMを「AC」が席巻中…“世間の反発”に“クライアントへの配慮”まで非常時の「CM裏話」

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すごいことを考えた!

 一つは、スナックでの話だ。私自身、このCMは良いCMだと思っていた。「ポポポポーン」という言葉のセンスに加え、東日本大震災という悲劇の時以外に流れたら人々を楽しい気持ちにさせていただろう、と感じていたからだ。だから、スナックでこのCMを同行者と興奮しながら絶賛し、この企画を作った東急エージェンシーはよくやった! などと言っていたら、席を一つ空けた椅子に座っていたスーツ姿の男性2人がおずおずと声をかけて来た。

「あのぉ~、すいません。僕ら、ポポポポーンを作った東急の者です。とかく、あのCMは批判されており、我々も『震災を思い出させてしまい申し訳ない』と思っていた中、お褒めいただきありがとうございます。少し心が晴れました」

 他にも、玩具メーカーに勤めていた知り合い女性は、アイディアマンとして知られる同社社長の側近だった。3月、ポポポポーンが頻繁に露出する中、彼女に「おい、すごいことを考えた!」と言ってきたのが「あいさつの魔法。」に登場する12種類のキャラクターの玩具化である。カプセルトイでのフィギュアやぬいぐるみを同氏は考えていた。

「おい、今、この12種類のキャラを商品化したら売れるぞ! 何しろオレ達が広告を打たなくても勝手に毎日宣伝をしてくれるのだから。商品開発をしたことはプレスリリースで出すが、その後のプロモーションは勝手にACがやってくれる。これはどうだ!」

広告は販促ツール

 しかし彼女は「そんなこと、倫理的に無理です。やめてください」と社長の発想をピシャリと断った。

 さらに当時私は自身が広報の一部を担当していたクライアントから「ACのCMをやめて、本来のCMに戻すにあたって世間の反発を買わないようにするにはどのような情報発信をすればいいか」の相談を受けたりもしていた。

 当時のACのCM、そして現在のフジテレビで流れるACのCMについて視聴者はネガティブに思うところもあるだろう。だが、このように多くの人が真剣に取り組んでいる現実もある。さらに、採用されるACのCMは賞の対象でもあり、社会的メッセージを伝えたい広告クリエーターにとっては格好の場である、ということも追記しておく。まぁ、広告を「作品」と呼ぶ風潮は私は嫌いだが。あくまでも広告は販促ツールである。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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