「表にポリ公ようけおるな」…三菱銀行事件「梅川昭美」の大胆不敵な要求 捜査本部がどうしても避けたかった「ふたつの差し入れ」

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 猟銃を手に三菱銀行北畠支店(当時)に押し入り、行員2名と警察官2名を射殺。発砲を繰り返しながら他の行員にも重傷を負わせ、女子行員の服を脱がせたり、男子行員の耳を切り取らせたりするなど、猟奇的な側面からも日本犯罪史上に残る残虐な事件――昭和54年1月26日に起こった「三菱銀行猟銃立てこもり事件」(以下、三菱銀行事件)。衝撃的な事件発生から間もなく、大阪府警は大きな決断をする(全3回の第2回)。

最初の突入計画

 密室化した銀行内の様子を探ること――それが捜査員に課せられた使命だった。犯人の梅川昭美(30)が閉めさせたシャッターと床の間にできた35センチのすきまから集音マイクを入れるほか、シャッターに穴を開けて内部の様子を探った。さらに、店舗1階スピーカーの電気回路を逆配線にし、現場の様子を集音する作業も進められた。その中でも、

〈(シャッターの)穴開けによる偵察孔は非常に有効となった〉(警察庁の資料より)

 捜査1課特殊班員が、文字通り血眼になり、ドリルで開けた穴から一部始終を記録したのである。大阪府警首脳は、発生当初から「被疑者狙撃が最も有効な対策」と判断していたが、実際にその動きは早い段階からあった。

 事件発生日である、昭和54年1月26日午後9時――。

〈それまでずっと黙ったまま集まってくる情報に耳を傾けていた吉田(注・六郎)本部長が口を開いた。

「今から一時間半以内に、どのようにすれば犯人を逮捕でき、人質を救出できるか、最善の方法を考えよう」

 静かな口調だが、有無を言わせぬ響きがあった〉(『ドキュメント新聞記者:三菱銀行事件の42時間』読売新聞大阪社会部著・角川文庫)

 持久戦に持ち込んで犯人の疲労を待つ――立てこもり事件捜査の基本である。それと並行して行われるのが説得。犯人の要求や言い分を聞きながら、交渉を進める。だが、この事件では、いずれの手法も効果はないと思われた。「警官の姿が見えたら人質を殺す」。犯人はこう主張し、実際に2名の警察官を殺害している。しかも、自身が持ち込んだ猟銃に加え、殺害した警察官の銃を奪い、所持している銃は増えていた。

〈強行突入しかないと、だれもが考えた。問題は、いつどのようにして突入するか、であった。第二機動隊訓練指導担当、松原和彦警部が呼び込まれた。松原は射撃の指導官だった。強行突入といっても、猟銃とピストルを持っている犯人を制圧するためには、狙撃逮捕しかないというのが幹部たち自らの結論であり、それが可能かどうかを松原に判断させるためであった〉(前掲書)

 支店長席にいる犯人は、自分の前に人質を扇状に一列に並ばせている。この時、松原警部は人質の間を狙って犯人を撃つことができると答えたという。早速、6人の狙撃手が選ばれ、銀行3階で現場と似たような状況を設定して密かに訓練が行われた。突入の時間は27日午前零時と決まる。

 だが、シャッターに開けた穴から内部の様子を探っていた特殊班員から報告が入る。

「犯人は自分の前に扇形に並べていた人質を、背後にも回した」

 松原警部もシャッターの穴まで行き、中を確認した。

〈坂本(注・房敏捜査)一課長が松原警部に問いかけた。「どうや、いけるか」

 松原警部はしばらく考え込んでから

「できません。前に並んだ人質の間は通せても、うしろの人質にあてないとう自信はありません」〉(同)

 かくして、最初の突入作戦は中止となった。

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