侍ジャパンの新エース・中日「高橋宏斗」 高校時代の恩師は「決して投げやりになることがなかった」と驚異的な成長の“理由”を振り返る
昨季、先発投手で最も圧倒的な投球を見せた投手と言えば、多くの野球ファンが高橋宏斗(中日)と答えるのではないだろうか。キャンプでの調整が遅れて開幕こそ二軍スタートとなったものの、12勝4敗、防御率1.38で最優秀防御率のタイトルを獲得した。特筆すべき数字は、被本塁打1。これは、規定投球回に到達した投手の中でもナンバーワンである。【西尾典文/野球ライター】
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中京大中京時代の恩師が語る高校時代の高橋投手
他球団の編成担当者は高橋の凄さについてこう話す。
「一昨年まではボール自体は良くてもまだ制御できていない印象でしたが、昨年は明らかに全ての球種の精度が格段に上がりました。先発投手にしては、球種が少ないのですが、良い時はストレートとスプリットだけで抑えられてしまいます。(スプリットは)変化が遅くてスピードもあるので、打者はボール球でもどうしても振ってしまう。昨年の状態が続けば、今年も相当勝つと思いますね」
昨年11月に行われた「プレミア12」でも、先発の柱として見事な投球を見せており、今後は侍ジャパンの中心となる可能性も高いだろう。
そんな高橋は愛知の名門、中京大中京から2020年にドラフト1位でプロ入りしている。しかし、そこまでの道のりは決して順風満帆ではなかったという。
中京大中京の高橋源一郎監督は、中学時代の高橋について、次のように話してくれた。
3年生の大会はコロナで中止に
「宏斗のお兄さんが同じ『豊田リトルシニア』で全国優勝した時のエースで有名なピッチャーだったので、最初はその弟ということで認識していました。中学のチームの監督からは野球も勉強も兄に比べるとまだまだで、あいつはよく練習をサボるという話をされたのを覚えています。ただ、高校に入ってきたらそんなことは全くなくて、率先して練習もするし大きい声も出すし、全然評判と違うなと思いました。冬の間に体が大きくなって、5月の練習試合に投げさせたらいきなり141キロも出ました。1年の夏から公式戦で投げて、秋には147キロくらい出ていたと思います」
筆者は1年秋の東海大会、対静岡戦で、現地で、初めて高橋の投球を見た。まだ体は細かったものの、コンスタントに140キロを超えており、その投球は強く印象に残っている。「中京大中京の高橋宏斗」の名前が、スカウト陣の間で広がり始めたのもこの頃からだった。
しかし、当時、高橋は右ひじに不安を覚えていたため、東海大会後は約2カ月間のノースロー調整を経験したという。また、1年秋は東海大会準決勝、2年夏は愛知大会の準決勝で敗れて、甲子園出場を逃すなど、なかなか勝ち切れない時期が続いた。
ようやく2年秋にエースとして東海大会優勝、明治神宮大会優勝を成し遂げて、全国大会で結果を残したが、3年時には新型コロナウイルスの感染拡大で出場予定だった選抜高校野球が中止となっている。
しかしながら、そんな逆風も高橋はプラスに変えることができたようだ。高橋監督は、この当時をこう振り返る。
「2年秋は結果を出ましたけど、正直、そこまでの安定感はありませんでした。一冬超えて春までにもう少し上がってくればと思っていたら、コロナ(の感染拡大)で全く全体練習ができない。宏斗は、帰省していた大学生のお兄さんと練習して、トレーニングをしていたようです。6月に愛工大名電と練習試合をすることになって、『だいぶ実戦から遠ざかっていたので大丈夫か?』と聞いたら『投げられます』というので、先発をさせたら、いきなり150キロ以上を連発して驚かされました。試合を見に来ていたスカウトの方も驚いていましたね」
この年の8月に行われた甲子園交流試合では、智弁学園を相手に延長10回を投げて11個の三振を奪い、ストレートの最速は153キロをマークしている。この頃には、「高校生投手ナンバーワン」という評価は、不動のものとなっていた。
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