チャールズ国王も怒り心頭か…実弟「アンドリュー王子」と、MI5が危険視した“スパイ疑惑の中国人”との深すぎる関係

国際

  • ブックマーク

ロンドンに拠点を置く企業の取締役

 王族と外国人実業家の交友関係をすべて咎めていてはキリがない。だが、H6のスマホからは、中国共産党中央委員会傘下の情報機関である「統一戦線工作部」 と直接交わしたメールや、「戦略に関する中国大使館からの質問」のメールも見つかり、最初の入国禁止決定時には「統一戦線工作部に代わって『秘密裏に欺瞞的な活動』に従事したとみなされた 」との発表があった。入国禁止を維持した先日の判決でも「中国政府、中国共産党、統一戦線工作部との関係を故意に隠蔽した」と指摘されている。

 そこで気になるのはH6の正体だ。当初はどのメディアもアンドリュー王子の「側近」やH6と報じていたが、16日に高等法院が実名の公表を許可。ダン・ジャーヴィス国務大臣(安全保障担当大臣)が議会で「ヤン・テンボ(楊騰波)」と明らかにした。

 1974年に中国で生まれたヤン氏は、02年に初めて英国を訪れ、ヨーク大学で修士号を取得。05年にコンサル会社を立ち上げ、英国に定住していた。複数社の取締役と、英中の貿易促進に関するNPO「48 Group Club」の名誉会員も務め、アンドリュー王子が設立した起業家支援プラットフォームを中国に広げた「Pitch@Palace China 」が17年にスタートした際は、共同創設者に名を連ねている。さらに中国のウェブサイトには、中英企業家峰会、中英企業家連合会、英国中華総商会、第15回世界華商大会工作委員会、雲南欧州商会など関連する組織の名前がずらりと並ぶ。

 裁判文書の公表直後にH6の素性を割り出していたRadio Free Asiaの記事は「北京とのつながりをほとんど隠さなかった長年の活動家」と表現した。記事によれば、中国CCTVで放送されたヤン氏のデスクには、元英首相のテリーザ・メイ氏とデービッド・キャメロン氏それぞれと撮影した写真が飾られていたという。

「H6」が匿名の権利を放棄した理由

 英中間ではスパイ摘発合戦が激しさを増す一方だ。英国では5月に香港経済貿易代表部の幹部を含む3人が逮捕され、うち1人の英国人男性は仮釈放の直後に公園で不審死を遂げた。中国では6月にMI6のスパイとして中国政府職員の男女2人が逮捕されている。

 そんなきな臭い状況でまんまと“主役”になってしまったアンドリュー王子は、ヤン氏への判決後に緊急声明を発表。英国政府の助言に従って接触を絶ち、「公式ルートを通じてその人物と会ったが、機密事項については一切話し合わなかった」と釈明した。

 とはいえ、それを信じられるかは微妙なところだ。ハンプシャー氏のメールには「あなたの指導により、私たちはウィンザーの家に関係者を目立たず出入りさせる方法を見つけました」という、英国政府が頭を抱えたであろう物騒なお礼も書かれていた。そしてそのメールを受けとったヤン氏は「(王子が)最も信頼する側近を除けば、あなたはとても多くの人々が望んでいるポジションの最上位にいる」人物なのだ。

 一方でヤン氏も、実名公表に合わせて声明を発表。「私は間違ったことや違法なことを何もしておらず、英内務省が私に抱いている懸念には根拠がありません。私が『スパイ』であると広く伝えられている説明は完全に事実ではありません」と全面否定した。

 匿名である権利を自ら放棄 した理由は「メディアによる憶測や誤報があまりに多いため」としている。判決後、実名公表を求める声は大きく、右派政党リフォームUKの議員が議員特権で明らかにすると発言していた。

 さらに中国側は、外務省の報道官が「このように不当な誇大宣伝に反論する価値はない」と発言するなど、疑惑を一蹴している。

次ページ:中国との浅からぬ関係

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。