「腹違いの弟」が女性を連れて現れ…49歳夫の幸せな家庭は壊された 「10年後、妻と笑い話にできるかどうか」

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ようやく妻を問い詰めると…

 言い訳はしない。弟はそう言った。でも迫ってきたのは義姉さんだよ、とも。それ以上は言えないと弟は口をつぐんだ。隆正さんは弟を残して店を飛び出し、帰宅した。妻がキッチンに立っていた。

「子どもたちは試合が近いからってまだ練習……と言いかけたところを、『弟に迫ったのか、抱いてくれって言ったのか』と詰め寄りました。妻はぎゅっと口を結んで何も言わなかった。僕は振り上げた拳をおろせなくなった感じで、おろおろしたあげく、『本当のことを話してほしい』と懇願しました。すると妻は『自分が先に葉子さんに手を出したんでしょ』と。やはり疑っていたんだとわかりました。葉子さんの相談に乗っていた時期はあったけど、誓って関係はないと断言しました。『だって葉子さんが……』と紗織は顔色を変えました」

 実際、隆正さんは葉子さんに迫られたことがあったそうだ。だが、それだけはできない、あなたは義妹だったんだから。相談にはいつでも乗るからとなだめたのだ。葉子さんは自分の気持ちを整理できないときだったから、隆正さんに「フラれた」腹いせに、紗織さんに「自分はあなたの夫と関係をもった」と告げたらしい。

「だからといって紗織が弟に迫っていったのが解せないですよね。それを突いたら、紗織は『なりゆきで……』って。そのとき、あっと気づいたんです。僕と弟は、母親が違うせいか、まったく似てないんですが、紗織がもともと好きなタイプは弟のほうかもしれない、と。僕は長身で痩せ型ですが、弟は中肉中背、がっしりタイプ。見た目もけっこうホリの深い濃いめの顔なんです。結婚前に紗織が夢中になっていた俳優もそういう感じだった。弟を好きになったのかと聞こうとしたけど言葉が出なかった」

 ただ、隆正さんは「弟は葉子さんとヨリを戻したそうだよ」と告げた。紗織さんが棒立ちになっているのを見ながら、彼は自室へと引き上げた。

「僕は家庭には縁がない」

 それから数ヶ月経つが、隆正さんは紗織さんとほとんど会話を交わしていない。息子たちのことを考えると離婚するわけにはいかないし、義父母の手前もある。

「弟とはそれきりです。葉子さんからも連絡はない。あのふたりが何を考えているのかわからないけど、弟のことは恨みながらも憎めないまま。妻に対しては、弟とふたりで僕を笑っていたのか、みたいな思いはありますが、実際には妻は自分が言ったようになりゆきとかノリとかで弟を誘っちゃったような気もする。許せるかどうかは別の話ですが」

 近いうち、妻とはきちんと話し合わなければいけないとわかっている。妻もそう思っているはずだ。顔を合わせないようにしていても、お互いに肝心なことを話さなければいけないと感じているのは伝わっている。

「ふっと思うんですよ。10年後、この話を妻とふたりで笑い話にできるかどうかと。それができそうな気がするなら、積極的に妻との関係を修復したほうがいいはず。それがどうしてもできないと思うなら、いっそ早く別れたほうがいいかもしれない。今、僕はどちらとも言えないんです。だから息子たちのこととか義父母のことを引き合いに出して、結論を先送りしている……」

 それにしても、と彼は言った。

「やっぱり僕は家庭には縁がないんでしょうかねえ。僕にとって紗織は生涯をともにするパートナーだった。でも有り体に言えば、あっさり裏切られていた。それがなんとも情けなくて」

 怒りより先に、自分の情けなさに思いが至ってしまうのが、隆正さんという人なのかもしれない。

 ***

 隆正さんの育った家庭が家庭だけに、最後の言葉は重い……。彼の生い立ちは【前編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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