【驚愕】アナタの体内に潜む「微生物」は1.4kg 「人間は彼らなしに生きていけない」
今そこに座っているあなたは、およそ4万種の細菌にとっての“わが家”で、人間は細菌なしでは生きていけない。ヒトの体に棲んでいる微生物の山を合計すると、およそ1.4kgで、ほぼ脳と同じくらいの重さになり、最近では体内の微生物叢(そう)を「器官」のひとつと定義する研究者もいる。
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医療・医学の最前線の取材を重ねてきた在イギリスのノンフィクション・ライターであるビル・ブライソンの『人体大全』(桐谷知未訳)をひもとくと、細菌に感謝せずにはいられない意外な事実に驚かされる。【前後編の前編/後編を読む】
※本記事は『人体大全』の一部を抜粋・再編集してお届けする。
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あなたの約99%は細菌で、あなた自身はほんの1%でしかない
長年のあいだ、一般に、誰もが「ヒト細胞」の10倍もの「細菌細胞」を持っていると言われてきた。自信ありげに聞こえるその数字は、1972年に書かれた推測にすぎない論文から出てきたことがわかっている。2016年には、イスラエルとカナダの研究者たちがもっと慎重な評価を行ない、各人が約30兆個のヒト細胞と、30兆から50兆個の細菌細胞(健康状態や食事など、たくさんの要因に左右される)を持つという結論に達した。
つまり、両者の数はほぼ同等らしい。ただし、ヒト細胞の85パーセントは赤血球で、通常の細胞機構(核やミトコンドリアなど)を何も持たず、実際には単なるヘモグロビンの容(い)れ物なので、本物の細胞とはいえないことも憶(おぼ)えておくべきだろう。別の考えかたによれば、細菌細胞はとても小さいが、ヒト細胞はそれに比較すると巨大なので、膨大さに関して、そしてもちろん機能の複雑さに関しても、ヒト細胞のほうが疑いの余地なく大きな意味を持つ。
その一方で、遺伝学的に見れば、ヒトの中には自分の遺伝子が約2万個しかないが、おそらく細菌の遺伝子は2000万個ほどもあるので、その視点からすると、あなたのおよそ99%は細菌で、あなた自身はほんの1%でしかないともいえる。
ヒトは細菌のおかげで健康維持できている
あなたは何兆、何十兆もの小さな生き物の住まいであり、彼らは驚くほど多くの点で役立ってくれている。あなたが自分では利用できない食物を分解してエネルギーの約10%を供給し、その過程でビタミンB2やB12などの有益な栄養素を抽出する。
スタンフォード大学で栄養学研究の指導教官を務めるクリストファー・ガードナーによると、ヒトは20種類の消化酵素を生成し、それは動物界ではなかなか立派な数字だが、細菌は1万種類、つまり500倍多く生成する。「彼らがいなければ、わたしたちははるかに栄養状態の悪い人生を送っていただろう」とガードナーは言う。
地球は“微生物の惑星”である
ひとつひとつは限りなく小さく、彼らの命ははかない。平均的な細菌の重さは1ドル札の重さの約1兆分の1で、命の長さはほんの20分ほどだ。しかし、集合的に見ると、まさに侮(あなど)りがたい存在感がある。
あなたが一生のうちに手に入れられる遺伝子は、持って生まれたものだけだ。もっといい遺伝子をどこかから買ってきたり、新品に取り替えたりすることはできない。しかし細菌は、まるでポケモンカードのように、互いに遺伝子を交換できるし、死んだご近所さんからDNAを拾うこともできる。
「遺伝子の水平伝播(でんぱ)」として知られるその機能のおかげで、自然や科学研究にどんな目に遭わされようと適応できる能力が、飛躍的に高まる。しかも細菌のDNAはあまり正確に校正されないので、しょっちゅう突然変異が起こり、ますます遺伝的な適応力が向上する。
ヒトは、変化の速度については細菌に遠く及ばない。大腸菌は1日に72回増殖できる。つまり、わたしたちが全人類史にわたって築き上げてきたのと同じ数の新世代を、3日でつくれるということだ。理論上では、たった1個の細菌の親が、2日以内で地球の重さより重い子孫の集団を生み出せる。3日で、その子孫は観測可能な宇宙の質量を超えることになる。そんなことは決して起こりえないが、わたしたちの周囲にはすでに、想像を絶するほど多数の細菌がいる。もし地球上のすべての微生物をひとつの山に、他の動物すべてをもうひとつの山に積み上げたとしたら、微生物の山は動物の山の25倍大きくなるだろう。
だから、勘違いしてはいけない。ここは微生物の惑星なのだ。わたしたちは彼らの気まぐれのおかげで、ここにいる。微生物たちにとって、ヒトはまったく必要ない。ヒトのほうは、彼らがいなければその日のうちに死んでしまうだろう。
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この記事の後編【「口づけで10億個の細菌が移動する」 “体を張った実験”で明らかになった、風邪の「予想外な感染ルート」の真実】では、細菌の感染ルートの意外な事実について紹介している。
※『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』より一部抜粋・再編集。