常にトイレが気になって…「人生で4~5回漏らしました」 “バレないパンツ”を開発した難病社長の切実な思い

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前編【「実際に漏らして開発しました」 “うんちを漏らしても気付かれないパンツ”誕生秘話】からのつづき

“漏らしても気付かれないパンツ”が、GWの長時間移動での“トイレ問題”における救世主となるかもしれない――。開発にあたり、株式会社OMAPAN代表取締役社長の洞本昌明氏は、実際に漏らし、実験を繰り返したという。“うんちを漏らしても気付かれないお守りパンツ”を謳う一見ユニークな商品だが、背景には、こうしたアイテムを求める切なる事情があった。

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 洞本氏は、20年以上にわたり、「潰瘍性大腸炎」という腸の難病と付き合ってきた。潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜(最も内側の層)にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患だ。特徴的な症状としては下痢と頻繁な腹痛で、血便を伴うこともある。安倍晋三元総理が患っていることを公表して知った人も多いだろう。

 ひどいときには1日20回以上下痢に襲われる、「便意に振り回される生活」を洞本氏は続けてきた。外を歩いているときは、コンビニやカフェなどトイレを借りられそうな場所を常にチェック。電車などの公共交通機関はすぐにトイレに駆け込めないため、移動は車が基本だ。体調が悪い日は、そもそも出かけない。それほど徹底しても、漏らしてしまったことは人生で4~5回あるという。

 その経験が「OMAPAN」(3,980円、税別)の開発につながった。見た目は普通のボクサーパンツながら、150cc(一般的なオムツ1回分)の量の下痢を吸水し、5大排泄臭(アンモニア・酢酸・メチルメルカプタン・硫化水素・インドール)を同時にブロックする機能を備えている。

 それまで類似商品はなかったのか。

「便漏れに特化した、漏れと臭いの両方をブロックできるパンツは、調べた限りほかにありません。尿漏れ防止のパンツはありますが、吸水量は5~50cc程度と少量です。防水と防臭の両方を叶え、かつスタイリッシュな見た目にするために、試作と実験を重ねました」

「発症した日はわんわん泣きました」しかし……

 現在49歳の洞本氏が潰瘍性大腸炎を発症したのは、23歳の時だった。京都を中心に展開する書店チェーン「ふたば書房」の三代目として生まれた洞本氏が、関西のとある百貨店にテナントで入っている家業の売り場で働いていたときのことだ。当時の売り場フロア統括者から、いつしか強く当たられ始めたという。

「朝礼のとき、みんなの前で『洞本みたいになったらダメだぞ!』と言われだし、ショックを受けていました。ですが、僕がフロア統括者に突っかかってトラブルを起こせば、家業の書店と百貨店の関係が大変なことになる。そう思い、日々グッとこらえて仕事に励みました」

 そこで、自分なりの対策として気付いたのが、一言も文句を言われない完璧な仕事をしようでした。洞本氏は朝一番にエスカレーターの前に立ちお客様に挨拶をする、誰よりも丁寧に仕事をするといった行動を徹底した。その結果、フロア統括者から認められ出したのか、徐々に態度も軟化していったという。

 洞本氏が潰瘍性大腸炎を発症したのは、そのタイミングだった。

「いつものように勤務していたある日、トイレで用を足すと便器が血の海だったのです。急いで病院に行き検査を受けると、直腸炎型(肛門に近い直腸のみに炎症が認められる型)の潰瘍性大腸炎であることがわかりました。23歳のいい大人でしたが、その日は、なぜ自分が難病にならなければいけないのかと、わんわん泣きました」(洞本氏)

 潰瘍性大腸炎の原因は分かっていないものの、フロア統括者からの叱責と、仕事に励みすぎた疲れがストレスとなって、発症の引き金になったのかもしれない。だが、洞本氏は「病気の発症は宿命だったのだと思います。フロア統括者に全く恨みはなく、むしろ今の自分があるのは、このフロア統括者の教えのおかげです」と笑う。

「その時、学んだのが「先義後利」という言葉でした。中国の儒学の祖の一人、荀子の栄辱編の中にある『義を先にして利を後にする者は栄える』から引用した言葉です。ビジネスに当てはめると、『企業の利益よりも先にお客様への義を貫く』、つまり『お客様第一主義』『社会への貢献』ということになります。OMAPANを含め、僕は今まで7個ほどビジネスをしてきましたが、『先義後利』の精神に則ったところ、ほぼ全事業において失敗はしませんでした」(洞本氏)

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