5歳の時に捨てられた母親の死をきっかけに、夫は年下妻に隠れて化粧を…妻に「変態」と言われてもやめられない“心境の変化”

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前編【結婚直後、年下妻のコンプレックスと憎悪を知ってしまった夫 彼女を怒らせたら大変なことになると知りつつ、白状してしまった“秘密”とは】からのつづき

 加瀬雅明さん(51歳・仮名=以下同)は、育った環境を「お金はあったけど愛はなかった」と振り返る。5歳の彼を幼稚園に見送ったあと、姿を消した母。不倫相手と再婚し、会社は彼女との子供に譲ると遺言に残し逝った父……。心の傷を抱えた彼がアラフォーで出会ったのが、13歳年下の千芙美さんだった。友人の腹違いの妹である彼女に、自分と同じ“親に捨てられた感じ”を見て取った雅明さんだが、ふとした出来事で彼女が見せた「憎悪に満ちた目」に、彼は底知れぬ闇を感じ取った。

 ***

 息子が生まれると、千芙美さんは過剰なまでに息子べったりな母親になった。育休をとって仕事に復帰したいと言っていたのに、そんな発言は忘れたように仕事を辞めた。

「千芙美はきっと怖かったんだと思います。自分が子どもをちゃんと育てられるのか、愛情をどうかければいいのかさえわからないんですから。それは僕も同じです。息子はかわいかったけど、単にかわいがるだけでは育てていることにはならない。それがわかっているのにどう育てたらいいかわからないんです。僕も何度も助産師さんに助けを求めました。ただ、理屈でわかっても子どもは理屈通りにはいきませんよね」

 雅明さんは仕事に逃げることができる。だが千芙美さんは逃げられない。それが結果、溺愛しながら支配するという関係になったようだ。雅明さんが通った中高一貫校に入れると張り切りだしたのは息子が小学校に入ったころだ。

「僕は父ほど甲斐性がないから家庭教師をつけるのは無理。息子は小学校4年生くらいになってから、本人の意志で受験させるかどうか決めよう。千芙美にそう言いましたが、彼女はほとんど聞く耳を持たなかった」

 受験だけが人生ではないはずなのに……。少しずつ夫婦関係にヒビが入っていくのが怖くて、彼は仕事に没頭した。

蘇る母の記憶

 3年ほど前、雅明さんのもとに、ある自治体から連絡があった。母親が亡くなったという。彼は思わず、「ああ」と天を仰いだ。

「大人になったら母を探そう、いつか会えるはずだと心の隅で思っていたんです。でも勇気が出なかった。結局、母は縁もゆかりもない寒い町で、ひとりで死んでいった。どうしたらいいかわからなかったけど、妻には出張だと偽って、とりあえずその町へ行きました。母の顔を見ても、5歳の自分の記憶とは合致しない。結局、引き取れないのでそのまま荼毘に付して、遺骨は現地のお寺に預けたんです。遺品は、わずかな衣類と、母の若い頃の写真が数葉。きれいな人だったんだと思ったとたん、僕の封印していた記憶が滝のようにあふれてきた。母の手のぬくもりとか、大きなえくぼのある笑顔とか」

 そういえばあの日、幼稚園に手をつないで歩いていくとき、母は「まーちゃんは大きくなったら何になる?」と聞いてきた。彼は間髪を入れず「宇宙飛行士」と答えた。「そうだったね、変わってないのね。じゃあ、おかあさんも宇宙に連れて行ってくれる?」と母は言った。「うん、絶対連れていく」と答えた自分の声が脳裏に蘇って、彼はその場にくずおれて号泣した。

「早く探せばよかった。母に会いたい。痛切にそう思いました。でも思ったときには、もう母はいなかった」

 彼が帰宅したとき、千芙美さんが息子を大声で叱っていた。彼はイライラして、思わず「子どもを叱るな。目の前の息子の気持ちを考えろ」と声を荒らげた。すると千芙美さんが、また憎悪に満ちた「あの目」で彼を睨んだ。

「子どもをもってもなお、ああいう目をするのかと妻に絶望しました」

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