「友だちがいなくて、早く、明日へ行きたかった」 転校先で孤独を抱えた詩人・向坂くじらが合唱に心ひかれた理由

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転校先になじめず、仲間外れに

 国語教室ことぱ舎代表を務める詩人の向坂くじらさん。詩集『とても小さな理解のための』、エッセイ集『夫婦間における愛の適温』などで知られる彼女は小学生時代、転校生としての孤独を抱えながら、ある合唱曲に心を寄せていた。それはいったい?

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 歌っていた。友だちがいなかった。合唱をしている時間だけは、自分の声とみんなの声とがきちんと混ざる。それではじめて、「みんなとわたし」ではない、一緒くたの「みんな」になれる。歌はひとりの声ではとても出せないようなうねる力を抱え、音楽室をふわーっと上昇する。山ほどの嫌いなことのなかで、その上昇は好きだった。

 小学6年生に進級する春、名古屋から横浜へ引っこした。父の仕事の都合だった。もともと人づきあいが器用なたちではない。5年かけてできあがってきた人間関係にいきなりなじめるわけもなく、当然のように仲間はずれにされた。登校しても教室に行く気が起きない。昇降口で上履きに履きかえたあと、右手に教室へ続く階段が、左手には保健室があって、3回に1回は左に曲がった。主な話し相手は、そこで会う生活指導部の教師だった。

 やがて彼女のはからいで、彼女が顧問をする合唱部に入ることになった。「みんなで歌う」ということが、陰気な子どもによい変化をもたらすと期待したのだろう。実際、合唱は楽しかった。練習中にほかのクラスの子と話すこともあった。でも、だからといって、放課後に遊ぶような友だちができるわけではなかった。

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