「VIVANT」が海外で売れない…「国際的に異例」の設定を日本だけが受け入れた“特殊事情”

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大規模テロの被害から免れている日本

 Netflixの最大のマーケットは米国である。その米国では2001年9月11日、アルカイダによる同時多発テロ事件が起きた。テロリストが旅客機4機をほぼ同時にハイジャックし、そのうちの2機でニューヨークの世界貿易センタービルに、1機でワシントンDCの国防総省ビルに突っ込んだ。残りの1機は墜落した。

 この事件によって、テロ事件としては史上最悪の3000人を超える犠牲者(行方不明者を含む)が出た。米国はすぐさま報復を開始した。世界規模での対テロ戦争が始まった。

 米国はアフガニスタンやイラクに部隊を展開した。2011年にはアルカイダの指導者であるウサマ(オサマ)・ビンラディンを殺害するが、それ以降も「イスラム国」(IS)との戦いなどテロとの戦争は終わっていない。

 米国ばかりではない。昨年から今年だけでもスペイン、イスラエル、パレスチナ、パキスタン、インド、フィリピン、マリ、エジプト、トルコ、シリア、フランスなどで絶え間なくテロが起き、多数の死者が出ている(公安調査庁調べ)。テロリストとテロを嫌悪する心情は各国共通のものだろう。

 一方、「VIVANT」の中でも触れられたが、日本は国際的な大規模テロの被害から免れている。1995年にオウム真理教による地下鉄サリン事件があったが、日常的にテロの脅威にさらされるようなことはない。

海外はテロリストを受け入れない

 だから、このドラマは日本国内で成立したのだろうが、海外の人には違和感があると見る。米国にとってテロリストは一般的に憎悪の対象でしかない。

 それは米国ドラマを観ても分かる。FBIが失踪者絡みの事件を追うCBSのヒットドラマ「WITHOUT A TRACE」やニューヨーク市警の活躍を描くNBCの同「Law & Order: Special Victims Unit」、CBSの同「FBI」にはテロリストがたびたび登場するが、ことごとく唾棄すべき人物として描かれている。

「WITHOUT A TRACE」ではテロリストに間違えられた善人の研修医がSWAT(米国警察の特殊部隊)に射殺されたが、それを後悔した捜査官はたった1人。一方で、妻を同時多発テロ事件で失い、悲しみのあまり人が変わり、凶悪犯になってしまう男が極端に同情的に描かれた。

 無論、こんなことは福澤克雄氏も折り込み済みだっただろう。しかし、歴史や環境、文化が違う異国民同士が価値観を共有するのは難しい。

全10回では短すぎる

 ほかにも海外テレビ局に「VIVANT」が売れにくい理由がある。これは日本の全ドラマに共通することだが、全10回では短すぎる。前出の3つの米国ドラマは1時間作品で全て20回以上ある。しかもシリーズ化されている。

 韓国ドラマも大半が20回以上ある。テレビ東京「韓流プレミア」(月~金曜午前8時15分)で放送中の「王女ピョンガン 月が浮かぶ川」は、毎回約1時間で約30回ある。全10回程度では各国の放送フォーマットと合わせにくいのである。

 前出の「Mother」も数多く売れたのはトルコによるリメイク版。こちらは全85回でつくられた。

 動画配信だけ考えるのなら、全10回は平均的だ。しかし、海外テレビ局への販売も視野に入れた場合、ドラマの放送体制の根本的な見直しが必要となる。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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