「座して待つだけが答えではない」 高齢化の進む能登半島の復興から学ぶこと(古市憲寿)

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 今年1月に地震の起きた能登半島は、もともと高齢化が進んだ場所だった。2020年の時点で奥能登の高齢化率(65歳以上人口の割合)は48.9%で、その中でも珠洲市は51.7%だった。つまり住民の約半数が65歳以上なのである。

 同年の日本全体での高齢化率は28.7%、東京都では23.3%だった。実は同じ石川県でも、金沢市の高齢化率は27.0%にとどまる。一口に「高齢化」といっても、地域差が大きいのだ。

 しかし奥能登もこの事態を、ただ手をこまねいて眺めていたわけではない。たとえば珠洲市はサテライトオフィスの誘致に積極的で、2014年には金沢大学も「珠洲サテライト」という地域拠点を設けている。

 2017年には奥能登国際芸術祭が始まった。今回の震災復興でも問題になったように、奥能登は交通の便が悪い。新幹線の通る金沢からは電車もなく、高速バスで3時間程度かかる。

 だが芸術祭ではそれをウリにした。自分たちを「日本列島のさいはての土地」と定義し、だからこそ「日本各地の生活文化が集積」する場所と考えた。2023年の会期中の来場者は延べ5万人を超えた。奥能登の人口規模を考えれば成功といえる数字だろう。

 2021年には医薬品商社のアステナホールディングスが本社機能の一部を珠洲市に移転した。社長の岩城慶太郎さんも珠洲に住民票を置き、東京と大阪との3拠点生活を始めた。岩城さんによれば珠洲には、東京にはないビジネス上のメリットがあるという。

 例えば規制の少なさ。調査のためにドローンを飛ばそうと思っても、東京では種々の許可を得る必要がある。だが珠洲では飛行条件を満たすだけでいい。本当に申請がいらないのか心配になって市長に電話したら「どうぞどうぞ」と言われて終わりだったという(「中央公論」2024年2月号)。

 そうした最中での能登半島地震だった。奥能登は大きな被害を受けた。交通事情が悪く、支援物資の配送やボランティアの受け入れさえままならない期間が続いた。水道管は耐震化率が低く、断水も長引いている。

 同時に、これまでの奥能登の取り組みは、復興にプラスの影響を及ぼしているとも思う。芸術祭に行ったことのある人は、報道で伝えられる被災地の場所を、当事者性を持って想起しただろう。次の芸術祭が開催される時には、きっとまた現地を訪れるはずだ。

 アステナの岩城さんは震災直後から復興に尽力、行政に先んじて二次避難の支援を開始した。「能登乃國百年之計」と銘打ち、未来の奥能登を考えるプロジェクトも始めた。

 奥能登の経験は、日本社会の未来を考える上でも大きな示唆を与えてくれる。この国の更なる高齢化が進むことは避けられない。遠くない未来、首都直下地震や南海トラフ地震、富士山噴火も起こるはずだ。

 座して待つだけが答えではない。たとえささやかだとしても、人間は未来をマシなものに変えるくらいの力を持っている。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2024年2月22日号掲載

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