藤井聡太八冠がタイトル20連覇 本人が「伝説上の方のイメージ」と語る大名人の棋風に似てきた

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振り飛車を「復活させた」菅井

 戸辺七段は菅井について「菅井八段がまだ初段くらいで私が四段か五段だった頃、『戸辺先生、一局指してくださいよ』と言ってくる。ものすごい強さで、私は5回に1回くらいしか勝てなかった。今の活躍を見れば納得ですよ」と振り返った。菅井と同様、少数派の振り飛車党の戸辺七段は、そんなことからも菅井に一矢報いてほしかったのではないか。だが、結局、七番勝負は4局で終わってしまった。

 昨年の王将戦は羽生善治九段(53)との「夢の対決」となり、羽生が2勝して盛り上がった。菅井はその直後の叡王戦で藤井に挑戦し、第2局で見事な差し回しで藤井に勝利していたので、今回も大いに期待された。だが、柔軟かつ盤石の八冠の前に「ストレート負け」。藤井は「叡王戦では序盤でペースを握られてしまうという将棋があったり、そうでなくても中盤の難しい局面で急所がつかめずに時間を多く使ってしまったりということがあったので、今回の王将戦にあたってはその点を意識して練習将棋で対抗形の経験を積んだり序盤を深く考えたり、ということをして臨みました」とも打ち明けた。この1年で藤井がさらに先へと進化していたということなのだろう。

 一方、大盤解説場で会場から大きな拍手を受けた菅井は、少し涙ぐんだようにも見えた。悔しさを押し殺し、最後に「まあ、明日からも頑張って生きるしかないので頑張ります」と笑顔を見せた。

 菅井の活躍で稲葉陽八段(35)ら若手トップ棋士の間でも振り飛車が見直されているという。大きな貢献をしているのだ。大山はなんと63歳で名人戦に登場し、中原に挑戦している。刀折れ、矢尽きるまで、何度でも藤井に挑戦してほしい。
(一部敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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