阪神ドラ4「百崎蒼生」 高校時代に挫折を味わった苦労人ルーキーに注目が集まるワケ

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ドラ4ルーキーは熱い

 将来はリードオフマンか、それとも、チャンスに強いクラッチヒッターか?

“アレンパ(連覇)”を目指し、キャンプの動向に注目が集まる岡田阪神だが、ドラフト4位ルーキー・百崎蒼生内野手(18=東海大熊本星翔)が、キャンプ前の新人合同自主トレで異彩を放っていた。

「育成選手を含めた新人8選手による3000メートル走が行われ、1位は3位指名の山田脩也内野手(18=仙台育英)でした。百崎は2位でしたが、1秒差だっただけに、本当に悔しそうにしていました。3000メートル走は新人合同自主トレの恒例行事でもありますが、ここまで盛り上がったのも、今年が初めてかもしれません」(在阪記者)

 3000メートル走は序盤から山田がレースを引っ張った。百崎は徐々に順位を上げ、ラスト1周で猛追してきた百崎と山田の一騎打ちになった。「あと一歩」というデッドヒートに、集まったトラ番記者たちも歓声を上げていた。

 百崎が目立っているのは、単に“熱い”からだけではない。喋りが巧いのである。しかも話す内容も面白く、周囲へ気配りも出来る。

「山田? 本当、学ぶことばかり。同じチームで良かった~」

 レース後、百崎は同い年のライバルをそう評していた。和田豊・二軍監督(61)も二人を強化指定選手に指名。「非常に鍛えがいがあるというか、楽しみ」と期待を寄せている。

 百崎と山田は同じ高校卒内野手で、ポジションはショート。右投げ右打ち、広角に打てるシュアな打撃スタイルも酷似している。今回の3000メートル走は、長いライバル物語の序章でもあったのかもしれない。

「高校時代の山田は1年生からレギュラーで、昨春のセンバツ大会ではベスト8、夏の甲子園でも準優勝に輝きました。U-18大会のメンバーにも選ばれ、早くからドラフト上位指名候補として紹介されてきました」(アマチュア野球担当記者)

甲子園常連校に進学するも

 一方、百崎の野球人生は異色だ。高校時代には山田のような「全国での活躍」はほとんどなかった。中学硬式クラブで活躍し、東海大相模高校にスカウトされた。1年生から試合に出ていたが、それが「躓き」の始まりだった。

「甲子園でホームランを打つというのが彼の目標でした。甲子園大会の出場常連校である東海大相模からの勧誘があったとき、二つ返事で郷里の熊本県を離れることを決めたそうです」(前出・同)

 だが、一年生で公式戦に出場していたのは、百崎だけ。一年秋から3番・遊撃のレギュラーを掴み、県大会優勝。関東大会でもバットで結果を出し、8強入りに貢献した。しかし、同級生との人間関係がうまくいかず、年末年始の休暇で郷里に帰ると、そのまま学校に戻らなかったという。

 中学時代の友人の励ましもあって、地元の系列校・東海大熊本星翔に編入し、野球もリスタートしたが、日本高野連の規則で転校生は1年間、公式戦に出場することができない。この間、徹底的に練習し、新しい仲間たちのために球拾い役も自ら買って出たそうだが、本当は寂しかったという。

「当時、高校生内野手で注目されていたのは、山田とオリックス1位の横山聖哉(18=上田西/右投左打)でした。百崎は公式戦に出られなかった間、甲子園大会で多くの高校生野手が活躍しているのを見て、自分だけ置いていかれたような気持ちになったのでしょう。東海大相模時代の活躍を見ていた高校野球ファンは、彼のことを覚えていましたから」(前出・同)

 だが、百崎はさらなる試練に直面する。転入後、最初で最後の公式戦出場のチャンスが夏の甲子園予選だった。その熊本県大会の開幕直前の練習試合でアクシデントに見舞われた。練習試合で自打球が左足甲に直撃。激痛と同時に動けなくなり、直行した病院で骨折が告げられた。

「それでも、試合に出ると言って聞かなかったそうです。骨折の影響で、初戦はエラーもあり、ノーヒットに終わりましたが……」(地元メディア関係者)

 骨折の痛みを抱えたまま勝ち上がり、準決勝では豪快な3ランホーマーも飛び出した。甲子園行きのキップを手にすると、

「やっと恩返しが出来た」

 と、呟いた。涙もあふれた。挫折し、転入後の野球生活を支えてくれた仲間たちのこともある。そして百崎は早くに父親を亡くしており、母親が頑張って野球に専念させてくれたという。百崎の夢は甲子園でホームランを打つことだったが、それは「母親に恩返しをする」という目標とも重なっていた。

 甲子園は1回戦で敗退、しかし新たな夢はプロへとつながって行き、阪神に指名された。他球団スタッフは、当時の百崎をこう評していた。

「グラブのハンドリング・テクニックはプロのレベルに到達していました。スローイングの動作も独特で、左足をしっかり踏み出しているんですが、見栄えがしないんです。でも、物凄く強いボールを一塁に投げていました。好機で打席がまわってくると、自分に火が着く、燃えるタイプです」

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