ロシア軍輸送機墜落のミステリー ウクライナ軍の誤射説が有力、そこから浮かび上がる戦況

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 TBS NEWS DIGは1月24日、「ロシア軍の輸送機が墜落 ウクライナ捕虜65人含む全員死亡 ミサイルで撃墜の見方も」の記事を配信し、YAHOO!ニュースのトピックスに転載された。ロシア国防省が「ウクライナ国境に近い西部ベルゴロド州で、軍の輸送機がウクライナから発射されたミサイルで撃墜された」と発表したのだ。

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 輸送機にはウクライナ兵の捕虜65人を含む74人が搭乗。捕虜交換のためベルゴロド州に向かっており、全員が死亡したという。

 とはいえ、“独裁国家”であるロシアの発表を鵜呑みにすることはできない。「自分たちの戦友が乗っている輸送機を、果たしてウクライナ軍が撃墜するのだろうか?」というシンプルな疑問も、ネット上では拡散している。

 TBSも《ウクライナ側は墜落に関与したかどうか明言していません》と慎重な姿勢を示した。一方、BBC NEWS JAPANは25日に配信した記事で、かなり踏み込んだ報道を行った(註1)。担当記者が言う。

「BBCの取材に、ウクライナの軍情報当局が『以前のように安全な領空を確保するよう求められてはいなかった』と答えたのです。これを元に、BBCは《ロシア輸送機の撃墜を暗に認めた》と伝えました」

 国連の安全保障理事会は25日に緊急会合を開き、ロシアとウクライナの双方が出席した。ロシアが「自国の捕虜を殺害する残虐なテロ行為」と非難すれば、ウクライナ側は「我々の得た情報では遺体安置所に送られた遺体は5人のみ」と、墜落機に捕虜が乗っていなかった可能性を示唆した(註2)。

不可解なロシアの動き

 結局は双方が激しく攻撃するだけで終わったわけだが、この不可解なミステリーを一体、どう受けとめればいいのだろうか。軍事ジャーナリストが言う。

「撃墜地点であるベルゴロドの位置を見てみましょう。ウクライナの北部にある都市、ハルキウから約70~80キロという距離です。ウクライナがアメリカから供与されたパトリオットミサイルや、独自に保有するロシア製地対空ミサイルS300の射程圏内に余裕で入ります。ウクライナは『ミサイルを発射していない』という明確な証拠を示せていません。やはりBBCの報道通り、輸送機を撃墜した可能性が高いでしょう。今後、時間が進むにつれ、ウクライナ軍の誤射説が有力視されるのではないでしょうか」

 ただし、不思議なのはロシア側も決定的な証拠を出していないことだ。例えば1983年に起きた大韓航空機撃墜事件で、自衛隊はソ連空軍パイロットの無線交信を傍受。その音声をアメリカが国連の安保理で公開し、ソ連空軍が民間機を誤射した証拠を完璧に示した。

 ロシアにとってはウクライナを批判する絶好のチャンスなのだ。「捕虜を乗せた輸送機が撃墜された」という主張が事実なら、アメリカと同じように決定的な証拠を示し、ウクライナを徹底的に非難することができる。にもかかわらず、今のところそうした動きはない。

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