藤井聡太八冠が3連覇に王手 “地上波解説者デビュー”に「将棋小僧なんだな」

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臨機応変に対応

 また、藤井は「と金を払われる手をうっかりしてしまって。なんかだいぶまずい順を選んでしまったなと思っていました。『8六と』のほうがよかったか。あとはそうですね、『7五歩』、『6六飛車』に単に『7三桂』と取るか」と話した。菅井の「5六角」に対して56手目で51分考えて「7五歩」としていた局面のことだ。深浦九段は「藤井さんはうっかりしたと言っていたが、そのあとのリカバリーが素晴らしい」と感嘆していた。藤井は「6五」に歩を垂らすなどの巧手で、菅井を封じていった。

 深浦九段は「さっきまで『8一』に居た桂馬があれよという間に(『7七桂成』から)『6八』にきてしまう。誰しもあんな桂馬の使い方をしてみたいとは思うんですが、簡単ではないですよ」とそのタイミングの妙にも驚いていた。

 藤井は桂馬使いの名手で、「桂馬の高跳び歩の餌食」の格言どこ吹く風とばかり早い段階で桂馬が前進してくることも特徴のひとつだった。しかし、この日は自陣で終始じっと「待機」していた右の桂馬が、終盤、一気に跳んできて、菅井陣を潰したのである。何をやっても柔軟で臨機応変に指せることに改めて感服する。

 開場のさんべ荘には、菅井の故郷の岡山からもファンが駆け付けていた。菅井は「厳しいけどあきらめずに頑張ります」と話していた。

 第4局は2月7、8日に東京都立川市の「オーベルジュ ときと」で行われる。

藤井がNHKの解説者で登場

 王将戦第3局が行われていた1月28日、恒例の「NHK杯テレビ将棋トーナメント」が放送された。藤井は佐々木勇気八段(29)と古森悠太五段(28)が対戦した3回戦第8局の解説を担当した。地上波テレビで藤井が対局の解説をするのは、これが初めてだった。

 藤井は「残り時間が少ないですが、うまく粘り強く差している」「せめて行くならこのタイミングしかない」「やはり相手の急所を突くのが一番ですから」など淀みなく、わかりやすく解説した。結構な雄弁で、聞き役の女流棋士に問われないでも、自ら積極的に解説を進めながら、「私はあまり相手の顔を見るほうではない」とも打ち明けた。

 対局は佐々木八段が勝利した。藤井は感想戦の時も立会人のように座り、横から「そこは手が広い(選択肢が多い)と思ったんですか」などと盛んに問いかけていた。

 番組を見て知らせてくれた長野県安曇野市の将棋愛好家・古川富章さん(種田山頭火研究家)は「藤井さんが解説していてびっくりしました。彼の解説なんて初めて見ましたよ。表情も柔らかく、疲れた様子も感じない。本当に楽しそうで、やはりこの棋士は名人になってもどこまでも将棋小僧なんだなと思いました。やはり昨年のプレッシャーから解放されたんでしょうね」と話した。きっとカメラマンに無理に笑顔を求められるような記者会見などより、将棋盤を前にしているほうがずっと楽しいのだろう。

 藤井は昨年、名人と八冠の目指していた2つの大きな目標を達成してからは笑顔が増え、本来の朗らかな性格がよく見える。正月には東海テレビの特別番組に出演し、将棋好きで知られるタレントの萩本欽一さん(82)と対談した。

 今後は解説者の仕事のオファーも増え、ますます多忙になるかもしれない。若いとはいえ体が心配になるが、本田六段は「対局中の藤井さんの体調が悪そうだったことを見たことがないんです。鼻をかむのも見たことがない」と話していた。頭脳だけでなく身体も強健のようだ。
(一部、敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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