冤罪事件で検察と警察に1億6000万円の支払い命令も…亡くなった大川原化工機元幹部夫人の告白「控訴するなんて思わなかった。がっかりです」

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 2020年3月、大川原化工機株式会社(本社・神奈川県横浜市)の大川原正明社長(74)ら3人が「生物兵器の製造に転用できる工作機械を無許可で輸出した」という外為法(外国為替及び外国貿易法)違反の容疑で警視庁公安部に逮捕され、裁判の直前に起訴が取り消された冤罪事件。勾留中にがんが悪化して亡くなった相嶋静夫さん(享年72)の妻が、夫の無念を語った。(前後編の前編)【粟野仁雄/ジャーナリスト】

控訴に「がっかり」

 大川原社長と元役員の島田順司さん(70)、勾留された7カ月の間に体調を崩し胃がんが原因で死去した相嶋さんの遺族は、国(検察庁)と東京都(警視庁)に約5億6000万円の損害賠償を求め、21年9月に提訴した。昨年12月、東京地裁(桃崎剛裁判長)が国と都に約1億6000万円の賠償を命じる判決を言い渡したが、両者は1月11日までに控訴した。

「控訴するなんて思わなかった。がっかりしていますよ」と語るのは、亡くなった相嶋さんの妻(75)である。

 相嶋さんは20年3月11日、大川原社長、島田さんとともに逮捕され、「起訴取り消し」となる5カ月前の21年2月に「刑事被告人」のまま都内の病院で亡くなった。勾留中に体調を崩した相嶋さんは、胃がんを患っていることが判明。弁護士が何度も保釈を求めたが認められず、入院した時点では手遅れで、手術をすることはできなった。

「正義は勝つ、真実は一つ」

 1月16日、筆者は静岡県富士宮市にある相嶋さんのご自宅を訪問した。小高い自宅の窓からは、見事に聳える富士山が見える。富士の稜線が左右にこれだけ広く望める家などそうはないだろう。

「富士宮市には大川原化工機の粉体技術研究所があり、主人が設計したスプレードライヤの試験設備があります。主人は70歳を過ぎても、大好きな富士山を毎日見ながら、ここで働けることを本当に喜んでいました。なのに……」(相嶋さんの妻、以下同)

 仏壇には遺影とともに「正義は勝つ、真実は一つ」と書かれた紙が立てかけていた。夫の信念を妻が代筆したものだ。壁には孫たちと一緒の在りし日の写真が何枚も飾られる。

 判決が下された12月27日の記者会見で、相嶋さんの長男(50)は「父が逮捕された時、娘が泣いたんです」と嗚咽をこらえた。静夫さん夫妻の孫娘のことだ。

「孫娘は当時、高校3年でした。逮捕された主人と大川原社長、島田さんが悪人のように報じられ、孫がいじめられないかとか心配しました。息子の会見を見て、孫たちには可哀そうなことをしたと改めて思いました」

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