「もう一人産みたくなる」奇跡の保育園が、学童保育と劇団を運営する重要な意味

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 文部科学省は、2022年度の小中学校の不登校者が前年度より5万4108人(22.1%)増の29万9048人になったと発表した。毎年のように過去最多を記録している不登校者数は、コロナ禍を経て著しく増加している。

 保健室やフリースクールなど様々な受け皿が用意される中、熊本県にはそんな子供たちに積極的にかかわろうとする保育園がある。「やまなみこども園」だ。

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 この園は、子供たちの卒園後の学校生活を支えるだけでなく、不登校になった子に居場所を用意することまでしている。さらに2022年からは、園長の山並啓は地元の通信制高校で元不登校の生徒らを対象に、演劇を通したコミュニケーションの授業を担当することになった。

 やまなみこども園は、その高い理念と実行力から、全国の保育者や研究者から視察が絶えないところだ。なぜ今、そこが学校に息苦しさを感じる子供たちに手を差し伸べているのか。

 熊本の保育園で行われている新しい取り組みをレポートしたい。

園の方針を支える「父母の会」

 熊本市の繁華街の中心部から車で約20分、熊本市動植物園からほど近い閑静な住宅街に、やまなみこども園はある。1976年、啓の母親である山並道枝によって設立され、理想の保育実現を目指してきた。

 近年の日本の保育園は、主として保護者の子育て支援、次に子供の養護と教育を目的とした施設として位置づけられている。しかし、道枝が目指したのは、園という空間に保護者が積極的にかかわり、職員とともにそこでしかできない子育てをすることだ。職員と保護者と子供が一つになって、みんなで互いの五感を刺激し合いながら情緒力と想像力を身につけさせ、自信と夢を抱かせる。

 園のこうした方針を支えるのが、開園当初からつづく「父母の会」だ。保護者たちは仕事を終えると、園に集まって毎週のように子供や職員を交えて食事会を開き、保育事業の手伝いをしたり、イベントを立案したりする。

 園が行う運動会、キャンプ、お泊り、園外保育、発表会などの行事では、保護者が職員と同等に深くかかわり、準備からサポートまで行う。保護者主催の夕涼み夏祭り、バザーなどもある。そこで保護者が、全力で子供たちと共に歌い、踊り、感動の涙を流す様は、まるで文化祭を全力で楽しむ大学生のようだ。

「もう一人産みたくなる園」と言われる理由

 保護者同士の関係も親密だ。お互いの家を行き来してパーティーや旅行を頻繁に行う一方、困りごとがあればみんなで協力して助け合う。子供同士もきょうだいのような関係でお互いの家を行き来する。それがあるからこそ、保護者たちは心理的にも肉体的にも子育ての負担が軽くなり、楽しくなる。

 保護者の中には、そんな濃密な人間関係に魅了されて、園の近くに引っ越してくる人たちも多い。さらに、もっと長く園とかかわっていたい、もっといろんな保護者と仲良くしたいという思いから、三人目、四人目、五人目と子供を産むことも少なくないのだ。

 道枝は次のように語る。

「うちは“もう一人産みたくなる園”と言われているんです。最近は、経済的にも体力的にも育児が大変だから子供はいらないとか一人でいいという親御さんも多いと言われていますが、うちの園は逆なんです。園を中心にして、みんなで子育てをするから、それが楽しくなって、もう一人産もう、さらにもう一人産もうとなる。だから、多産な親御さんがすごく多いのです。私としては、それが子育てのあるべき姿だと思っていますし、そういう関係性こそが少子化対策になるのではないかと考えています」

 園については、別の記事【「もう一人産みたくなる」 奇跡の保育園「やまなみこども園」は何がスゴい?】と【「次の子が産みたくなる」 奇跡の保育園「やまなみこども園」の秘密 「散歩で摘んだ野草を給食に」「着替えは毎日3着分」】で紹介したので、そちらを参照していただきたい。こうした取り組みが、全国の保育関係者から注目されているのだ。

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