「筋力がなかった自分にとって…」 日本人初のF1フル参戦・中嶋悟が雨に強かった“意外な理由”(小林信也)

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雨が降ると負担が減る

「雨の中嶋」と異名を取るほど、雨のレースに滅法強かった。世界のトップレーサーが苦しむ中で中嶋は水を得た魚のように疾走した。89年オーストラリアGPでも激しい雨の中で追い上げた。1周目にスピンして最下位に落ちながら、猛然と順位を上げた。レースが早く終了し、3位に届かなかったが、初のファステストラップも記録した。なぜ雨のレースで速いのか?

「僕は体力的に弱かった。年々パワーアップするマシンの能力を引き出すには筋力が必要だった。僕にはそれ以上の強化ができなかった。当時はハンドルも重かった。加速すると横Gがきつくて首も痛む。肉体的に限界だった。ところが、雨が降ると負担が2、3割減るんだ。重いハンドルが軽くなる、ブレーキも強く踏めない、パワーで押し切れる範囲が狭くなる。逆にドライビング技術が生かせる割合が高くなる。僕には運転しやすくなるんだ。それで雨に強かった」

 野球やサッカーでも世界の最高峰で戦う日本人選手が登場している。その先駆けとなった中嶋がつぶやいた。

「僕がF1に挑戦した80年代は、『中嶋さんと一緒に世界に挑戦させてください!』って、それでスポンサーになってくれた日本企業がたくさんあった。でもいまはどうだろう?」

 世界に後れを取る日本社会の現状が浮かび上がって見えた気がした。

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2024年1月25日号掲載

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