北海道に行ったことがないのに始まった…漫画「クマ撃ちの女」 連載5年、取材写真で振り返る猟師のリアル

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「くらげバンチ」(新潮社)で連載中の「クマ撃ちの女」は、連載開始から今年で5年を迎えた。北海道を舞台に、主人公の猟師としての活躍を描いた同作は、描写のリアリティの点でも評価が高い。作者の安島薮太さんは、専門知識はほぼゼロの状態で企画は始まったと明かす。

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猟師から「これは絶対にない」と言われてしまった第1話

「クマ撃ちの女」は、主人公のハンター・小坂チアキと、彼女を取材するライター・伊藤カズキを軸に物語が進んでいく。ヒグマを仕留めることに情熱を注ぐあまり、ときに社会常識から外れた行動をとるチアキには、“復讐”という目的があった――。そんな物語の骨子を支えるのは、熊をはじめとした野生動物の習性やその解体方法、都会人には知り得ない猟師という職業の実態だ。

 チアキは北海道の旭川を拠点に活動しているが、実は作者の安島さん、北海道に渡った経験のないまま企画をスタートさせたという。

「もともとは編集部のほうから“釣りと料理”をテーマにした漫画を描かないかという提案があったんです。そこから漁師、猟師……と担当編集が連想していきました。だからクマ撃ちはもちろん、猟に詳しいとか、特別な興味があってのスタートではありませんでした。ただ出身が愛知県の三河にあった稲武町という、グーグルマップでみると緑一色の山深い地区で、祖父もハンターでした。今も地元にいる弟が猟銃所持の免許をとった良いタイミングでもあって、2018年の4月の終わりごろから、連載に向けた準備を始めていったのです」

 ヒグマ猟師・久保俊治氏のドキュメンタリー番組を観ていたことも背中を押した。「クマ撃ち」で行こうと決まった編集者との打ち合わせを終えたその足で、久保氏の著書『羆撃ち』(小学館)を買い求めた。

「この本で得た知識だけで1話と2話を描きあげました。舞台を北海道に設定したのも、友人が住んでいたのがたまたま旭川だったから。東京より北へ行ったこともなかった。実は1話では大きなミスを犯しています。“主人公が追跡の末にヒグマを見つけるも撃てず、自分の匂いを消すためにフンにまみれてやりすごす”という場面があるのですが、そのクマはフキを食べていたことにしてしまったのです。あとから猟師さんに、これは絶対にないと思う、と言われてしまいました。作中の設定は秋だったのですが、この時期のフキは糖質が抜けておいしくないからクマは食べないそうです。現実で起きないことは描かないというルールでやろうと思っているのに、いきなり破ってしまった。以降はきちんとルールを守ると決めてやっています」

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