松本人志と文春、「5億5000万円訴訟」で双方が「勝利宣言」をするシナリオは

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新聞に根も葉もないことを書かれた

 前編【松本人志vs.「文春」が裁判で「白黒つく」とはいえない理由 事実でも名誉毀損は成立する】からのつづき

 松本人志vs.週刊文春の対決は民事裁判の場で展開される可能性が大である。ただし、前編で見たように、そこで「真実」が明らかになるかはかなり怪しい。

「裁判で白黒つける」というのが「真実が明らかになる」ことだと思っていると、見誤ることになることについては、前編でもお伝えした通りである。

 しかも民事の裁判の場合、原告と被告、双方が“勝利宣言”をするようなことも珍しくはない。直近の実例を見てみよう。

 元官僚でコンサルタント業などを営む原英史さんが毎日新聞を名誉毀損で訴えたケースである。

 事の経緯は以下の通りだ。

 2019年6月11日付の毎日新聞記事は、原さんの顔写真入りで、国家戦略特区をめぐる「疑惑」を報じた。特区の提案者から原さんが現金と会食接待を受けたという印象を読者に与えるものだった。

 これについての原さんは、著書『国家の怠慢』(高橋洋一氏との共著)で、率直な感想をこう述べている。

「この件で本当に驚いたのは、新聞って全く根も葉もない記事を書くことがあるんだなということですね。新聞報道に間違いのあることはこれまでも知っていました。しかし、そうはいっても、大々的にスキャンダルを報じる記事をみたらこれまでは、すべてが真実かはともかく、少なくとも何らかの不正があったんだろうと思っていました。

 ところが、この記事に関して、私には何ひとつ不正がないわけです。それにもかかわらず、私が不正な金をもらったとしか読めない事実無根の記事が出ました」

 こうした気持ちから、原さんは毎日新聞社を訴えた。事実関係をめぐる双方の主張などは省くとして、この裁判の判決が1月10日確定した。一審では原さんが敗訴したが、二審では逆転勝訴、そして最高裁が双方の上告を退けたため、高裁判決が確定。つまり、名誉毀損(きそん)であることが認められたことになる。賠償額は220万円だ。

 この件を伝える朝日、読売、産経の見出しは以下の通り(いずれも1月12日付朝刊)。

「毎日新聞記事の名誉毀損、確定」(朝日)

「戦略特区記事 毎日新聞敗訴 最高裁、上告退ける」(読売)

「毎日新聞の逆転敗訴確定」(産経)

毎日新聞は「事実」をアピール

 原さん自身もX上で「私の勝訴が確定しました」と述べている。

 普通ならば、原さんが勝ち、毎日新聞が負けで「白黒ついた」となるだろう。

 実際に、毎日新聞もさすがに無視はできないので、自社が敗訴したことを記事にはしているのだが、その中にはこういう文章がある。

「国家戦略特区を巡る今回の報道は、警察や検察などいわゆる当局の発表によらない毎日新聞の独自の取材による調査報道でした。

 判決では、WG(ワーキンググループ)委員の協力会社が特区の提案者からコンサルタント料を得ていたという報道が事実だと認められました。一方で、会食費用の学校法人負担について、より慎重に学校法人幹部に確認すべきでした。懇談場所の描写も誤解を招くものでした。一部の取材が十分ではなく、記事も正確ではなかったとの判決の趣旨を真摯(しんし)に受け止め、今後の取材活動に生かしていきます」(1月11日 Web版)

 つまり、ここで毎日新聞は「裁判では負けたけれども、一部の取材が不十分で、記事が不正確だったことが理由で、それ以外のところは事実だった」と主張している。つまり全面的に負けたのではない、というのが判決確定後もなお毎日新聞側が見せているスタンスだ。

 記事が最初から最後まで全部真っ赤なウソというケースは少ないので、敗訴してもこのようにメディア側が主張することは珍しくない。

 もしも毎日新聞のみがニュースソースだという熱心な読者がこの記事を読めば、「毎日、頑張れ」とエールを送りたくなるところだろう。

 では、これを松本vs.週刊文春にあてはめるとどうなるか。

勝利宣言の行方は

 松本側がもっとも否定したいのは、週刊文春の第1弾記事で指摘されている犯罪的な行為だとみられる。直撃取材に対して、比較的余裕で対応していた彼が、性加害について問われた時に「無茶苦茶やな」と強い反発を示したと書かれている。だからこそ、1月22日に公表された松本の代理人コメントでも、訴える対象を「令和5年12月27日発売」の記事に限定し、争点が「性加害の有無」である旨が書かれている。

 一方で、週刊文春がその土俵で戦うかどうかは不明である。

 記事の第2弾以降では、新たな犯罪行為は示されていない。

 記事の焦点は後輩ら取り巻きによる女性の「上納システム」になっている。要するに後輩らが若い女性との合コンをセッティングしていたことに焦点が移っているのだ。

 つまりこの段階で週刊文春側が問題視しているのは、性加害だけではなく、「女性を“モノ扱い”するかのような所業」(同誌より)なのだ、という主張にも読むことができる。若い女性をホステス的に扱うこと自体が「モノ扱い」だ、というのは一種の論評に近いので、否定するのは難しいだろう。この部分こそが、一連の記事のメイン・メッセージだと文春が法廷で主張したらどうなるか。

 松本側が勝利し、もっとも否定したいポイントについては「白」となったとしても、後輩らを使って合コンをしていたことは、「白黒つかない」あるいは「黒」となるかもしれない。

 この場合、松本側は「やっぱり犯罪行為はなかった!」という点を強調するだろうし、週刊文春側は「上納システムはあったのだ!」という点を強調することになる。

 仮に賠償金を支払えといった判決が出たとしても、双方が別の主張をすることがあるのは、毎日新聞の事例を見れば明らかだろう。法廷外の情報戦も予想されるのである。

 前編では「真実でも名誉毀損になる場合」などについても解説をしている。

前編【松本人志vs.「文春」が裁判で「白黒つく」とは言えない理由 事実でも名誉毀損は成立する】からのつづき

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