亡くなった元カノの“呪い”に苦しめられる45歳男性 妻子とどうしても同居できない心境を告白

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前編【「あなたの子を妊娠した」と突然、会社に押しかけた元カノ… 45歳男性が妻に絶対言えない“ストーカー被害”の影響とは】からのつづき

 音楽関係の仕事をしている川村裕孝さん(45歳・仮名=以下同)は、5年前に結婚した妻との間に娘がいる。だが同居はしていない。高校時代の元恋人・美緒さんの存在がトラウマになっているためだ。息苦しい両親と祖父母から逃れるように上京し就職した裕孝さんの下へとつぜんやって来た美緒さんは「子どもができた」「両親が亡くなった」という嘘で彼の気を引こうとした。だが裕孝さんは拒絶。そして彼が27歳のとき、美緒さんは「呪い続けるから」という言葉を残し、病で亡くなった。

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 その後数年たって、彼はようやく「自分だけが悪いわけではない。あれはしかたがなかった」と思えるようになっていった。それでも傷は癒えず、30歳を過ぎ、周りは結婚していったが、彼は結婚はおろか恋愛すらできなくなっていた。

「仕事は楽しかったです。好きな音楽やアーティストにかかわっているだけで、自分の人生をよしとしようと決めたので、恋人がいなくて寂しいとは思わなかった」

 女性とふたりきりになるような場面は避けた。仕事上、そうなりそうなときは必ず同僚や後輩を同席させた。それがかえって彼の信頼性を高めることになったのだから皮肉な話ではある。

「なんだかいつの間にか、僕はフェアな人だと狭い業界では思われていたようです。女性とふたりきりになるのが怖かっただけなんですが(笑)」

 学生時代の友人たちとの再会もあった。美緒さんが亡くなったことはみんな知っていたが、彼との関係の詳細を知る友人はいなかった。美緒さんは結局、大学を中退したと彼はそのとき知った。彼自身も、もう彼女のことは語るまいと決めていた。

「どこかでずっと彼女に囚われている自分がいた。消そうとしても消えない。カウンセリングにかかったこともあります。もう自分を許してもいいと言われたけど、それは僕の心の問題で、やはりどうにもならない。消そうとせず、僕は僕の日常を一生懸命生きていくしかないと思ったのは30代半ばでした」

 いつでも心の奥に大きな黒い重い石を抱えているような状態だったと彼は言う。そんな中でも職場の仲間とバンドを組んで演奏する機会があり、彼は再び自分でも演奏活動をするようになった。

「仕事も趣味も音楽漬け。それはそれで楽しかった。むしろそれがリハビリになったのかもしれません。美緒のことを忘れている時間も増えていきました」

ベッドで目覚めると隣に女性が

 40歳の誕生日を仲間が、行きつけのレストランで祝ってくれた。そんなことは初めてだった。子どものころから誕生日など祝ってもらったことがなかったのだという。

「僕、クリスマスの生まれなんです。その日は終業式だから友だちはみんなさっさと家に帰るし、学生時代もことさらクリスマスが誕生日だと言ったこともないし。家では誕生日を祝う風習がなかった」

 40歳にして初めての誕生日パーティで、彼ははしゃいだ。めったに酔い潰れることはなかったが、その日はしたたかに酔って笑った。

「気づいたらホテルのベッドで寝ていたんです。ハッと起きると隣に女性がいた。よく見ると、店のオーナーの夏帆でした。何が起こったのかよくわからなかった。呆然としていると夏帆が目を覚まして『あんまり酔っていたから連れてきたの』と言ったんです。その瞬間、なぜか美緒とのトラウマが蘇ってきて、僕はあわてて服を着て飛び出しました」

 夏帆さんの店に行くのは避けていたが、1ヶ月後、夏帆さんから話したいことがあると言われて店を訪れた。「妊娠した」と夏帆さんは言った。あの日の記憶が定かではなかったのでまさかと思ったが、女性にそう迫られたら拒絶はできない。

「僕が妙な顔をしていたんでしょう。彼女は『私も30代半ばだし、何があっても生むつもりではいるけど、もし知りたいならDNA鑑定してみる?』と。冷静ですよね。悪いけどしたいと僕も率直に言いました」

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