「国が補助すればするほど農業の成長が阻まれる」 元農水次官が明かす“自民党とJAの風見鶏”と化した農政の実態

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「極端に言えば、予算を使わなくても、農業産出額を大きくすることはできる」。こう断言するのは、農水省の事務方トップである事務次官を2018年まで務めた奥原正明さん。農協改革を断行し、安倍政権の「攻めの農業」を牽引した人物で、昨年11月に日本維新の会がブレーンに迎えようとしているとの憶測が飛び交ったこともある。その目に、現在の農政は自民党とJAの風見鶏と化していて、費用対効果を踏まえない予算配分をしていると映るという。【山口亮子/ジャーナリスト】

予算の投入が多い県ほど稼げていない

「国が補助すればするほど、あるいは保護すればするほど、農業の成長が阻まれてしまう。基本的にそういうことだと思います」

 奥原さんはこう指摘する。農水省の経営局長を経て事務次官を務めた。その間取り組んだのが、農家をいかに制約から自由にし、補助金がなくても農業が成り立つ体制を作るかということだった。

「予算を入れたから良くなるという単純な話には、ならない。むしろ、入れたことによってうまく行かなくなることすらありますね」

 この言葉を裏付けるのが、都道府県の農業をコストパフォーマンス(コスパ)で評価したランキング結果である。農業関連の予算を売り上げ額である農業産出額で割ったコスパを求めると、予算の投入が多い県ほど農業で稼げていない実態が明らかになった。

 詳しくは1月20日発売の『日本一の農業県はどこか―農業の通信簿―』(新潮新書)をご覧頂きたいが、一言でいうと、予算の投入が多い作物に依存する県ほど、コスパが悪い。儲からない地域が、まるでブラックホールのように予算を吸収してしまっている。

 経済学で使われる言葉に「乗数効果」がある。投資をした結果、新たな需要が生まれ、支出額に留まらない経済効果をもたらすことをいう。公共投資をする場合に検討される概念だ。ところが、「農業の補助金が乗数効果を考えた投資になっているかというと、そうではない場合がほとんど」(奥原さん)。

 例年3050億円を確保している「水田活用の直接支払交付金」がある。コメの需要が減るなか水田では、米価を下げないために生産調整する、いわゆる「減反」が行われている。その後押しのためにムギやダイズや、飼料用、米粉用といった主食用以外のコメの生産などを助成する。コメの生産を抑制するという後ろ向きの目標に予算を投じていて、交付額を上回る経済効果を生むとは考えにくい。

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