「藤井さんに負けてから将棋へのモチベーションが…」 永瀬拓矢九段が王座戦死闘で感じた「藤井八冠が負けない理由」

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 2023年の将棋界の一大ニュースといえば、藤井聡太「八冠」(21)の誕生である。その藤井と研究を共にし、タイトルを懸けて死闘を繰り広げたのが永瀬拓矢九段(31)だ。将棋観戦記者の大川慎太郎氏が、永瀬本人にインタビュー。激闘の記憶と、八冠が敗れざる理由を聞いた。

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「負けの痛みは思ったよりもありましたね。いや、猛烈な痛みと言ってもいいかもしれません。でもあまりに痛すぎて、感じなくなってきているような状況です」

 光があれば影もあるように、勝者がいれば敗者が生まれるのが勝負の世界だ。最強棋士である藤井に喫した敗北を、永瀬は冒頭のように振り返った。

 2023年10月11日、藤井が第71期王座戦五番勝負第4局で勝利して、将棋界初の八冠全制覇を成し遂げた。

「私には永瀬先生しかいませんから」

 この王座戦五番勝負は、4連覇中の永瀬には名誉王座の永世称号が、藤井には八冠制覇がそれぞれ懸かった、掛け値なしの大勝負だった。偉業を成し遂げた藤井だが、決して簡単な勝負ではなかった。タイトル戦17期無敗の藤井が永瀬に大いに苦しめられ、内容的に最も押されたシリーズとなったのである。

 特にシリーズが決着した第4局では自玉に詰みが発生する絶体絶命のピンチに見舞われていたが、藤井は驚異的な終盤力で危機を脱した。対局はネットで生中継され、勝利を逃した永瀬が頭を掻きむしり、苦悩した姿は多くのファンの心を動かした。

 これほど王座戦が盛り上がったのは、永瀬の存在があったからだ。2017年から藤井の研究パートナーとなり、10歳年下の最強棋士と切磋琢磨してきた。永瀬は彼に尊敬の念を抱き続け、藤井も「私には永瀬先生しかいませんから」と取材に答えたことがある。

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