「FA権を行使しないことが美徳」という気持ち悪い雰囲気 横浜DeNA・戸柱選手はもっと大きな契約を取れたのでは(中川淳一郎)

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 プロ野球のFA制度って、初期の頃は「実力派選手が自身の正当な価値を測るべく宣言し、真っ当な評価をしてくれる球団からのオファーを獲得する」だったはずです。しかし、昨今は「自身の行く末を心配する選手が所属球団に忠誠心を示すべくFA宣言をしない」になっているような気がする。

 もちろん、ポスティングシステムによりMLB移籍を求める山本由伸投手のような別格の選手は違いますが、私がギョーテンしたのは横浜DeNAの戸柱(とばしら)恭孝捕手です。彼は現在33歳。十分な実力を持つ堅実な選手です。

 2016年入団で通算成績は打率.223、本塁打数は30本、打点は159。捕手という試合の要たるポジションでこの打撃成績は立派なもの。戸柱選手がFA宣言をすれば声をかけるチームはあったと思います。

 打率は低くともリードが上手で最低限2割台の打率を出せる捕手の市場価値の高さは、これまでにも認められてきています。

 1991年にヤクルトに入団し、以後日本ハム、阪神と渡り歩いた後、FA権を行使して横浜へ移った野口寿浩氏が思い出されます。同氏は18シーズンで911試合出場。年間50.6試合出場で、通算打率.250、本塁打42本。しかし「第2捕手」としての信頼度は抜群で、ここまで長くプロ野球でキャリアを重ねられたのです。

 そんな中、次のような記事が出ました。

〈DeNA戸柱が契約更改。国内FA権行使せず4年3億円規模の大型契約で残留(スポニチアネックス12月11日)〉

 この中で、戸柱選手は以下のようなコメントをしたと報じられています。

〈会見では「4年契約を頂きまして、来年からまた横浜でプレーすることになりました。(年俸は)今の年俸より凄いアップさせて頂きました。シーズンの後半に(チーム統括本部長の)萩原さんと話しをさせて頂く機会があって“戦力として期待している”と言ってもらい、僕自身もまた頑張ろうという気持ちにさせて頂きました」と声を弾ませた。〉

 戸柱選手はもっとカネのある球団に行ったら「4年6億円規模の超大型契約」も取れたのではないか、と思うのですよ。何しろ安定した成績を出せる捕手という存在は滅多に出てこない。

 現在、戸柱選手はプロアスリートとして晩期に差し掛かっているのはわかります。しかし、せっかく獲得した職業選択の自由をもたらすFA権を行使しないのはあまりにもったいない!

 横浜で「4年3億規模の大型契約」を獲得できたのはめでたいものの、戸柱選手ほどの実力ならば私が述べたように「4年6億」もいけたのではないかと思うのですよ。本当にFA制度が「大谷翔平レベルでない限りは容易に行使すべきではない」ものになっているのではないでしょうか。

 どうも、日本のプロ野球界では「資格を得たFA権を行使しないことがこれまでお世話になった球団に対する美徳である」という慣例があるのでは?と思うようになりました。戸柱選手は本当はどこかにもっと高い年俸で移籍できた可能性もある。超A級選手・S級選手以外が主張できないFA制度、イヤだな。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年12月28日号掲載

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