コロナ後の街づくりには何が求められているか――大松 敦(日建設計社長)【佐藤優の頂上対決】

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コロナ禍以降の都市・建築

佐藤 日建設計はゼネコンではなく、設計に特化した会社ですが、そこにはどんなメリットがありますか。

大松 弊社はプランナー、アーキテクト、エンジニアの三つの専門職能を持つ社員で構成されていますが、工事はしませんから、事業のために借金をする必要がありません。

佐藤 なるほど、そうですね。

大松 社員は2300人ほどで、近年の売り上げは五百数十億円ほど。その約1割が利益ですが、ほぼ無借金で経営しています。また株式会社ではありますが、すべての株式を現役の役職員が持っている。

佐藤 協同組合的な側面があるわけですね。

大松 だから中立的に仕事ができますし、仕事における自由度も高くなるんです。

佐藤 それは社員にとってもいいことですね。余計なことを考えずにすむ。

大松 中立的ですから、三井、住友、野村、それから三菱など、財閥や系列とは関係なくどんなデベロッパーとも仕事ができますし、ほとんどの主要な鉄道会社とも仕事をしています。特に共同事業では、私どもが間に入ることでまとまりやすくなる。

佐藤 そこで頭脳集団が能力を遺憾なく発揮する。

大松 このため現在の会社の形態は私どもが生き長らえていくために必要な形態だと思っています。

佐藤 コロナ禍以降、生活様式や働き方が大きく変わりました。これは今後、建築にどんな影響を及ぼしていくとお考えですか。

大松 まず人の動きが大きく変わりましたから、それにともない街のあり方、街に求められるものが変わってきたと思います。

佐藤 必ずしもオフィスが必要ではなくなりましたね。

大松 弊社もコロナ禍が始まった2020年の10月に定期券を廃止しています。最近は6割くらいが会社に来ていますが、昔のように「自宅と会社の往復」という感じではないんですね。会社で3時間仕事をした後、現場を経由して近くのシェアオフィスをタッチダウン利用してから自宅に帰る。そんなラウンドトリップ(回遊)的な動きになっている。

佐藤 この対談でも先方から指定されたことがありますが、シェアオフィスは一気に増えました。

大松 それに応えて、マルチタスクの街が東京の周縁部を中心にいくつもできています。建物もシングルユースのカチッとしたオフィスビルではなくて、オフィスや住宅、店舗にもできるような、多目的用途のものが増えている。

佐藤 地域的には分散していき、個々の建物は複合化していく。

大松 ええ、これまでは東京、渋谷、池袋など大規模ターミナルが重点的に都市再生されてきましたが、今後はさほど規模の大きくないところでも、特徴のある街にしていこうという流れができています。

佐藤 例えばどんな場所ですか。

大松 古書店街の神保町という街がありますね。その特色をさらに高めながら、商業的なもの、文化的なものを加えて都市更新していくとか、渋谷でも109の裏あたりの雑然とした一帯を、駅前のような大きなビルにするのではなく、ごちゃごちゃした感じを生かしながら再生するとか、規模を求めない形での開発の議論が進んでいます。そこにこれまで培ってきた都市再生の手法を応用する。

佐藤 小さくて魅力的な場所があちこちにできていくのですね。一方で地方では、前々から行政がコンパクトシティ化させようとしていますね。これが進まないのはなぜでしょう。

大松 コンパクトシティの原理は、インフラの集中による効率化です。でも住民にはその地域への愛着や記憶がある。経済効率だけでは合意できないということだと思います。

佐藤 上から押し付けるプロジェクトは往々にして失敗します。

大松 都市開発には人々の感情に訴えかけるような調整も必要です。弊社は基本的にボトムアップを重視し、ネットワークをつくりながら、開発を進めています。今後もこうしたやり方で、社会課題を解決する街づくりをさまざまな場所で行っていきたいと考えています。

大松 敦(おおまつあつし) 日建設計社長
1960年東京都生まれ。東京大学工学部建築学科卒。83年日建設計入社。主に都市開発部門を歩み、さいたま新都心、東京ミッドタウン、東京駅八重洲口開発、渋谷駅周辺再開発などを担当。98年企画開発室長、2003年プロジェクトマネジメント室長、11年執行役員、15年常務執行役員、16年取締役を経て21年より代表取締役社長。

週刊新潮 2023年12月21日号掲載

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