コロナ後の街づくりには何が求められているか――大松 敦(日建設計社長)【佐藤優の頂上対決】

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中東とロシアの事業

佐藤 海外でも数多くの開発をされていますね。

大松 スペインやベトナム、中国などで仕事をしてきましたが、最近だと中東ですね。ドバイでは、空港から市街地エリアへ入る地域に、高速道路を挟んだ二つのタワーと、地上約100メートル地点で2棟を結ぶ世界最長のキャンチレバー(片持ち式構造)からなる「ワンザビール(One Za'abeel)」という複合施設を手掛けました。オフィス、ホテル、住居、商業施設等が入っています。それからサウジアラビアのリヤドでは、証券取引所や主要金融機関が入った「タダウルタワー(Tadawul Tower)」が竣工しました。

佐藤 中東は大変でしょう。王族との交渉になりますし、そもそもリヤドは、2019年に観光ビザが解禁されるまで、行きたいと思えば行けるという場所ではなかったですからね。

大松 いまはだいぶ行きやすくなりました。通常、海外での仕事は、弊社を含め外国籍の設計事務所が全体的な設計を行ってディテールは現地に任せるのですが、タダウルタワーのクライアントは日本が大好きで、ディテールまで日本のビルのように造ってほしいと要望されました。それでコロナ禍の中でも現地に7、8人が常駐し、時に感染もしながら、頑張って造り上げたのです。

佐藤 現在のムハンマド・ビン・サルマン皇太子は石油に依存しない国づくりを進めています。そのために、リヤドを魅力ある街にしなければならないと考えている。

大松 サウード家の発祥の地であるリヤドに対する思い入れは、すごく強いと聞いています。

佐藤 イスラム圏では、外国人を2通りに分けます。「客人」と「労働者」です。

大松 なるほど、そういう見方ができるのですね。

佐藤 これは遊牧民ベドウィンの伝統ですが、日本からの7、8人は客人として扱われていたと思いますね。ちなみにサウジアラビアは「いとこ婚」が基本で、内婚制です。権力の中枢に入るには結婚して身内になる必要がある。また、男性はイスラム教に改宗しなければならない。

大松 弊社でも一人改宗しましたね。

佐藤 それなら交渉に当たって、その条件も価格も優遇されることになりますよ。明治期の日本の商社員は、イスラム教徒が多かったんです。ビジネスがやりやすくなりますから。そんな動機で入信していいのかといえば、イスラム側は大歓迎なんです。

大松 そうなのですか。

佐藤 彼らは、メリットがあるから改宗するのは当然だと考えている。

大松 それは興味深い。

佐藤 日建設計はロシアでも大きなプロジェクトに関わっていますね。

大松 ズベルバンクシティコンプレックスやガスプロムネフチ本社ビルなどの設計を行っていました。

佐藤 ズベルバンクというのは、ロシア版ゆうちょ銀行ですね。どちらもロシアの権力中枢につながっている事業です。

大松 ロシアはこれまで10年くらいかけて、政治家というよりはオリガルヒ(新興財閥)の方々と人間関係を築き上げ、ようやく多くのプロジェクトの契約にこぎ着けるまでになりました。ところがウクライナ侵攻で、業務継続が難しくなった。今年9月からは契約変更も含め、新たな契約は一切結べなくなりました。

佐藤 ズベルバンクシティは建設中ですか。

大松 ええ、ここは着々とできているようです。ガスプロムは、設計の許認可は取れましたが、着工したという情報は届いていないですね。

佐藤 ロシア人は約束を取り付けるまでは大変ですが、約束は守りますよ。

大松 海外でプロジェクトをいろいろ進めていますが、ロシアの仕事では設計報酬の入金に関するトラブルが少なかったですね。

佐藤 いつかは戦争が終わりますし、来年トランプが再び大統領になるようなことがあれば、ウクライナ支援が止まるかもしれない。だからこれまでに構築した関係は無駄にならないと思います。

大松 私どもの手掛けるプロジェクトは10年以上のものが当たり前ですから、その中で社会・経済情勢の変化はある程度想定しています。リヤドやドバイのプロジェクトでも繰り返し中断するなど、いろいろありました。ですから、長い目で見ていくことが大事だと思っています。

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