大谷翔平の巨額契約「1015億円」のわずか“3分の1”…スポーツ国家予算「359億円」で“後進国”になり下がった日本の現実

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大谷を育てたのは日本の野球界ではない

 私は『少年 大谷翔平「二刀流」物語』(笑がお書房刊)という本を出版している。これは、大谷が少年時代を過ごした水沢リトルという野球チームの総監督だった浅利昭治さんに伺った話を基に構成した本。浅利総監督の話を聞いて、大谷がいかに恵まれた才能を秘めていたかを知る以上に、いかに恵まれた環境で野球を楽しんでいたかに驚嘆した。やらされる練習をしていない、怒られた経験がほとんどない。高学年の時、監督は彼の父親だった。これほど深い愛情に包まれて野球に打ち込む野球少年にそれまで私は会った経験がなかった。ほぼ60年間、ファンとして取材者として時に指導者として野球と向き合って、目の前にあった「日本の野球」は大抵が大谷翔平の過ごした環境と対局にあった。怒鳴り声、強制的な指導、子どもの創造力を潰す言葉、勝利だけをよしとする空気。だが大谷の育ったグラウンドにはまったく違う、温かな眼差しが満ちていたように感じる。

 巨額契約の当事者になって、大谷翔平は浮かれていない。真っ直ぐに向き合って、自分自身に相応しい選択をしようと努めた様子が伝わってくる。日本の野球人の多くは、「日本の野球が大谷を育てた!」などと誇らしげに語るが、私はそうは思わない。大谷は日本の野球界が育てたのでなく、稀有な環境で野球を楽しめたからこそ大谷が生まれたことを真剣に見つめる必要がある。

明るい気持ちで喜べない

 かつての野球少年たちは、野球が好きで、打つこと、投げること、守ること、走ることが楽しくて野球に熱中した。大谷翔平はまさにそれをメジャーリーグでも体現する野球少年そのものだ。だからアメリカでも熱狂的な人気を得ている。私たちは改めてその原点にこそ注目し、日本の野球少年に本来の素晴らしさを体感してもらう環境を整えることこそ大人たちの務めだと思う。

 最後に、「スポーツ財源はない」との常識に一石を投じよう。アメリカでは2018年からスポーツ・ベッティングが合法化され、いまは年間10兆円を超える売り上げを記録しているという。この一部が今後もアメリカのスポーツ財源に還元され、施設の整備やスポーツ振興、強化などに使われる。1兆円を超えるスポーツ予算をアメリカ社会は確保した。対する日本は359億円程度で精一杯。増やす努力さえしていない。日本でも健全にスポーツ・ベッティングを導入する動きがある。これを阻止しているのもまた読売新聞だという事実も伝えておこう。読売は「八百長や依存症への懸念」を主な理由に反対のキャンペーンを張った。取材をすると、これはどうも正義・正論に名を借りた論法だ。読売は、自分たちの利権が見えない経産省の原案に抵抗しているようだ。こうした現実やカラクリを日本のメディアはなかなか報じてくれない。そうしているうちに、アメリカだけがスポーツ天国になり、日本は指をくわえて見るだけの後進国に成り下がる。だから、大谷の巨額契約騒ぎを明るい気持ちで喜ぶことができないのだ。

スポーツライター・小林信也

デイリー新潮編集部

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