26人犠牲「北新地放火事件」から2年 30代遺族が告白「夫の命の価値が低いと言われているようで憤りと悲しみが」

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 2021年12月に大阪市北区曽根崎新地、通称「北新地」に建つビル内の心療内科クリニックで起きた放火殺人事件から2年。26人もの患者らが犠牲となった事件は徐々に“過去”のものになろうとしているが、遺族はどんな思いでいるのだろうか。【ジャーナリスト・中西美穂】

なかったことにできない生き方

 仕事に復帰するための「リ・ワークプログラム」にクリニックで参加している最中、事件に巻き込まれて命を亡くした被害者の妻、その名を仮にAさんとする。年齢は30代。Aさんが自らの日常についてしみじみと言う。

「先日、ある芸人さんがテレビに出ていて、私、何気に笑ってたんです。そのときふと、『あ、この芸人さん、主人が好きだった芸人さんや』って思い出して、改めて『ここに主人がいたら絶対笑ってるだろうな』って思って。そんな風に、主人がいなくなった現実に直面することって生活の中でたくさんあって……。そのたびに感じるさみしさっていうんでしょうか、そういうものが薄れることはないけれど、主人がいなくなってしまった生活を受け入れつつ、できることをしている。そんな感覚ですね」

 事件から2年が過ぎて、語気強く口にした言葉があった。

「事件から2年目は、1年目とはまた違った感覚ですね。巻き戻せない、起こってしまったことは取り消せない。事件がなかったことにはできない生き方をしているんだなって、そう感じているんですよ」

「犯罪被害者等給付金」と向き合う

 事件を「なかったことにできない生き方」とはどういうことか。こうした悲劇に遭遇した人なればこそ直面する「犯罪被害者等給付金」の問題に日々、向き合わざるを得ないということだ。

 日本では、犯罪事件によって残された遺族に対し、国から犯罪被害者等給付金が支給される制度が設けられている。しかし、制度としてまだまだ未熟な点があるのは否めない。

 給付額は320万~2960万円と幅広く、2021年度の平均は665万円。被害者が無職だったり学生だったりすると被害金額の算定は厳しくなり、最低の320万円になるケースも。

 夫を亡くしたAさんの前に、やはりこの問題が立ちはだかった。

「夫は病気のために仕事を離れて復職をめざしていたのに、申請窓口で無職という算定をされると聞きました。このことには大変ショックを受けました。犯人は死亡していて、損害賠償を求める裁判を起こすこともできません。二重にも三重にも酷い仕打ちだと思いました」

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