柔道グランドスラム 阿部一二三・詩兄妹に死角はあるのか

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 12月2日と3日の両日、東京体育館(東京・千駄ケ谷)で開かれた柔道のグランドスラム東京大会で、男子60キロ級のパリ五輪代表が決まった。注目の先輩後輩対決に迫る。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

敗れても笑顔

 東京五輪金メダリストの高藤直寿(30=パーク24)と永山竜樹(27=SBC湘南美容クリニック)が対した男子60キロ級の決勝は、パリ五輪代表を決める一戦になった。試合中、高藤が顔面から出血し、頭に包帯を巻いた姿で再登場した。試合は両者にポイントがないまま4分が経ち、ゴールデンスコア(延長戦)にもつれる。そして開始20秒過ぎ、永山は高藤を背負い投げで転がし一本勝ち、高藤は天を仰いだ。

 勢いのある投げではなかったが投げた方向がよく、不意を突かれた高藤はあっさりと転がってしまった。永山は高藤の襟を持たず両袖を掴み、背負いを狙っていたが、勝負師の高藤にもわずかに隙があったか。

 敗れた高藤が永山を抱き寄せて、頭をポンポンと叩き笑顔を見せた。五輪2連覇と3大会連続出場の夢がついえた高藤が「パリは頼んだぞ」と引導を渡した瞬間だ。高藤は東海大学で永山の3年先輩だった。

ついに先輩を制して五輪選手に

 永山は当初こそ大きな大会で先輩の高藤に勝っていたが、オリンピックが絡むと高藤がしぶとさを発揮した。東京五輪代表を争う場となった2019年のグランドスラム大阪でも、永山は高藤に敗れた。

 北海道美唄市に生まれた永山は4歳で柔道を始め、愛知県の大成中学・高校から東海大学へ進み、1年生で世界ジュニア選手権に優勝した。昨年はアジア選手権で優勝、今年6月のグランドスラム・ウランバートル大会でも優勝している。8月にブダペスト(ハンガリー)で開かれたワールドマスターズでも優勝し、高藤は3位だった。右組で背負い投げや袖釣り込み腰といった担ぎ技を武器とする。

 試合後、永山は「やっとここまで来られた。よっしゃっていう感じです。オリンピックは小さい時からの目標の舞台。日本代表の誇りをもって畳に上がり、自分らしい柔道をして金メダルを取りに行きたい」と控えめに喜びを語った 。

 だが、この日、最も会場を沸かせたのは高藤だった。準々決勝のアンドレア・カルリーノ(イタリア)戦で、高藤は技ありを取られたまま残り時間がなくなってゆく。絶体絶命と思われたが、終了5秒前、高藤がカルリーノを投げ、審判が一本勝ちを宣告。大逆転勝利と思った場内は沸いたが、すぐに取り消されて技ありとなり延長戦にもつれ込む。そして延長開始から30秒、相手が大外刈りに来たところをすかして浮き落としを放つと、カルリーノは背中から落ちた。見事な一本勝ちで今度こそ逆転勝利。この勢いで高藤が優勝だろうと思わせる素晴らしさだった。

 高藤は決勝について「あれこそ頂上決戦。最後に(永山と)直接できてよかった」と振り返った。そして「僕の時代は終わった」ともこぼした。引退を明示したわけではないが、日ごろから「五輪がすべて」としていた高藤。内心、進退は決しているのだろう。

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