来日アーティストはなぜ「ニッポン最高!」と口にするのか

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日本の「風呂」が素晴らしい

 ミック・カーンの場合は、当時流行していたYMOの音楽やあるいは新幹線の販売員がドアで必ずお辞儀をする礼儀正しさといった文化にも感銘を受けていたのだが、そういう真面目なこととは別の部分に感動を覚えていた面々がいた。

 女性の「サービス」である。

 このあたりの事情については、『不道徳ロック講座』(神舘和典・著)で取り上げているエピソードをもとにご紹介してみよう。

 1972年、夫人同伴で来日したにもかかわらず、ミーティングだと嘘をつき「日本の風呂屋」に出向いたのは、プログレッシブ・ロックの雄、エマーソン・レイク&パーマーのキーボーディスト、キース・エマーソンである。

 この風呂屋は銭湯ではなく、女性のサービスを伴うものだ。

『キース・エマーソン自伝』(キース・エマーソン著/川本聡胤訳/三修社刊)には、その時の様子がわざわざ記録されている。

「私が浴槽に座って、新しい歯ブラシで歯磨きをしていると、その間にエア・マットレスが膨らまされ、そこが石鹸の泡で浸された。私はその間、その個室にある滝を眺めていた」

 最高の体験とまでは言わぬものの、一定の満足は得られた旨の文章がこの後に続いている。

 驚くべきは、これ以外に女性ファンとの「交流」があったことも告白している点である。相手の女性はこれが初めての体験だったという。彼が滞在していたホテルでいつも出待ちしていた若い女性をホテルの部屋に連れ込んだのだ。

 心温まるエピソードといえるかどうかは微妙なのだが、この女性との後日談までキースは自伝で触れている。18年後、別のバンドで来日した彼の前に彼女が現れたのだ。さすがにこの時交わしたのは会話のみである。

「私はそれ以上彼女と関係を持つ気はなかったし、彼女の方にもその気はなかった。ただ彼女は、私と再会できて、しかも私が彼女のことを覚えていたので、嬉しかったのだろう。私も嬉しかった」(同)

 キースと同様の体験をしたことを振り返っているのは、キッスのポール・スタンレーだ。

「ああいう店で雇われている女性には、こっちが服を脱いだ途端、腕や足の数が増えているんじゃないだろうか、と思わせられたね。彼女たちが俺にしたのと同じことが自分でも出来たなら、俺は家から出ないよ」(『ポール・スタンレー自伝 モンスター~仮面の告白~』(ポール・スタンレー、ティム・モーア著/迫田はつみ訳/増田勇一監修/シンコーミュージック・エンタテイメント刊)

 同じキッスのジーン・シモンズもファンの歓迎ぶりや新幹線への驚きとともに、日本女性との親密な交流を自伝で振り返っている。

差別がない

 ロック・スターたちの回想だけを見ていくと、若干その日本愛に不純なものを感じる方もいるかもしれない。ただ、こうした体験以外にも日本を好む理由はあるのだという。

『不道徳ロック講座』の著者、神舘和典さんはこう語る。

「黒人ジャズ・ミュージシャンに話を聞くと、アメリカのとくに南部ではレストランに入れてもらえなかったり、トイレを使わせてもらえなかったり、長い間差別されてきたそうです。サックス奏者、ソニー・ロリンズによると、世界的にレジェンドの扱いを受けるようになっても、飛行機のファースト・クラスに搭乗すると、CAさんからあからさまに奇異の目で見られると話していました。しかし、日本やフランスでは音楽そのものやキャリアに対してきちんとリスペクトされると話していました。こういう話を聞くと、親日家になる気持ちが理解できました。

 また、かつてはライブのときの客席がおとなしすぎると言われましたが、今はロックでは盛り上がりますし、ジャズにじっくりと耳を傾ける態度は好感を持たれるケースが多いようです」

 ミック・カーンは前述の自伝の中で、イギリス本国では人気バンドのサポートアクトとして出演した際、観客からツバや痰をはきかけられて、体も楽器もヨダレと痰まみれになった経験があったと怒りをもって振り返っている。もちろんこんなことはどんなアーティストのステージであっても日本ではまず見られない光景である。

 最近では韓国人DJの体に触ったなどという不名誉な事件も起きたが、期待に応えて日本人らしく、きちんとしたおもてなしをすることが望ましいのは言うまでもない。

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