日韓友好で支持率アップ? 岸田首相が気付いていない、空中分解する「尹錫悦政権」の現在

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 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が分解し始めた。来年4月の総選挙で大敗し、一気にレームダック化すると見る向きが増える。「大統領弾劾の可能性さえ出てきた」と韓国観察者の鈴置高史氏は言う。というのに、岸田文雄政権は尹錫悦頼みの「日韓友好」にしがみついたままだ。

前例のない赦免復権

鈴置:尹錫悦政権がピンチです。10月11日投開票のソウル特別市江西(カンソ)区の区長補欠選挙で、大統領が無理押しした候補が落選しました。

 2024年4月の総選挙の前哨戦と位置付けられていただけに、敗戦の責任を巡り与党「国民の力」が分裂。大統領派と反大統領派が抗争を繰り広げ、収拾のメドが立たなくなったのです。

 検察事務官の金泰佑(キム・テウ)氏は青瓦台(大統領府)特別監査班に派遣されていた2018年11月、ゴルフ接待を受けたとして摘発されました。金泰佑氏は翌12月、政府の多数の不正を告発。この結果、環境部長官が有罪となるなど当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権に打撃を与えました。

 2019年1月に解任された後は、政府の不正を暴くユーチューバーとして人気を集めました。2022年6月には「国民の力」から江西区長選に出馬し当選。しかし2023年5月、大法院(最高裁)で公務上秘密漏洩罪の有罪が確定したため、江西区長の職を解かれました。

 そこで江西区長の補欠選挙が実施されることになったのですが、何と被選挙権を失ったはずの金泰佑氏が出馬することになりました。金泰佑氏を押す尹錫悦大統領が、前例のない赦免復権を命じて可能になったのです。

保守の不満が噴出

 金泰佑氏の出馬に対しては与党内からも批判の火の手が上がりました。もともと江西区は左派の強い地域。そのうえ無理筋の赦免復権候補に首を傾げる国民も多かった。当選の可能性が低い以上、大統領の意向を無視しても「勝てる候補」を立てるべきだ、との意見でした。

 予想通り、区長選では野党第1党「共に民主党」の候補に負けました。それも得票率が39・37%対56・52%と、17・15ポイントもの大差をつけられての惨敗でした。

 半年後の総選挙を控えての惨敗ですから「国民の力」の議員、ことに反尹錫悦派の議員が大統領の独走に反発したのも無理はありません。

 保守系紙、朝鮮日報も社説「大統領が変化すれば『災い転じて福』、そうでなければ『弱り目に祟り目』」(10月12日、韓国語版)で、尹錫悦大統領に対する不満を一気に吐き出しました。

・[選挙結果を]これまでの過ちを正す信号として受け入れれば、国民は機会を与えるだろう。何よりも就任以降の尹大統領の国政スタイルへの疲労と反感が積りに積もっている。これは進歩、保守を通じて同じだ。国民の前で謙虚でなければならぬ。

せっかく得た若者の支持を失う

――「疲労と反感」とは?

鈴置:大統領の狭量さに対してです。「国民の力」は尹錫悦大統領の当選に大きな功績のあった李俊錫(イ・ジュンソク)代表を「性接待疑惑」に絡む証拠隠滅教唆を理由に、党員権6カ月停止の懲戒処分にしました。2022年7月のことです。

 今回の大統領選前の2021年6月、李俊錫氏は36歳の若さで「国民の力」代表に就任しました。左派の強いソウルの選挙区で敢えて3度も国会議員に挑戦して敗れるなど、保守陣営の期待の星と見られていたからです。もっとも、「若造の代表」には一部のベテラン議員が強く反発、尹錫悦氏周辺と摩擦も起きました。

 結局、尹錫悦氏を担ぐ勢力は「若い代表」のイメージを利用して20―30歳代の票をかき集め、2022年3月の大統領選挙で何とか勝ちました。ところが4カ月後にはあやふやな理由で代表の座から追い落とした。余りの露骨な掌返しに、保守政党の支持に回っていた若者は反旗を翻しました。
 
 韓国ギャラップによると、就任直後の2022年5月第2週の世論調査では18―29歳の45%が「大統領はよくやっている」と答え、「よくやっていない」の41%を上回りました。30歳代は54%対38%です。「若者は左派を支持する」という通例を打ち破ったのです。

 ところが約1年半後の2023年11月第3週の調査では、18-29歳が18%対60%、30歳代が22%対62%と激変。尹錫悦政権は貴重な若者の支持を失いました。

 「狭量さ」という意味では「国民の力」の大統領候補を争った洪準杓(ホン・ジュンピョ)大邱(テグ)広域市長に対する姿勢も同様です。

 2023年7月26日、「国民の力」は洪準杓市長に対し、豪雨注意報が出ている最中にゴルフをしたとして、党員権停止10カ月の懲戒処分を決めました。「警報」ではなく「注意報」しか出ていなかったことから、反尹錫悦派の大物を潰すのが狙いとも見られました。

 韓国ギャラップの2023年8月第1週の世論調査では、大邱とその周辺の慶尚北道(キョンサンプクド)で「大統領はよくやっている」の45%に対し「よくやっていない」が46%と上回りました。たった1%ポイントの差ですが、この地域は保守の牙城。極めて珍しい事態です。地元のエース、洪準杓氏への懲戒に対する反発であるのは間違いありません。

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