「1.5次流通」で日本のフードロスを削減させる――関藤竜也(クラダシ代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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 2014年創業のクラダシは、食品会社が廃棄していた賞味期限切れ間近や包装が破れた商品を買い取り、ネットを使って格安で販売する。従来の流通を毀損することなく、メーカー、消費者、そして運営会社が「三方よし」となるこのビジネスモデルは、いかに誕生したか。創業までの道程と今後の構想を聞いた。

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佐藤 クラダシは、賞味期限が迫っていたり包装に傷があったりする食品をメーカーから協賛価格で買い取り、インターネットで販売する仕組みを作って、大きな注目を集めています。

関藤 平均すると定価の60~65%で販売しています。また、その売り上げの1~5%は社会貢献活動の支援に充てています。

佐藤 ビジネスとフードロス削減という社会貢献が、非常にうまく融合したスキームですね。

関藤 ありがとうございます。これまでそうした問題のある商品について、選択肢は二つだけでした。一つはディスカウントショップに流すこと、そしてもう一つは、ブランドイメージと市場価格を守るため、メーカーがお金をかけて廃棄することでした。

佐藤 日本のフードロスは年間523万トンで、世界中で飢餓に苦しむ人への食料支援量の1.2倍といわれています。その一因がそこにある。

関藤 メーカーとしては、格安販売によるブランドイメージの毀損が怖い。だから廃棄するわけです。ただここにきて、それを社会が許さなくなってきた。

佐藤 逆にフードロスによってブランドイメージが傷つく時代ですね。

関藤 そこで私どもがもう一つの選択肢を用意したのです。メーカーから卸売業者、消費者へ流れていくのが1次流通、中古品の売買が2次流通です。私たちはその中間に、メーカーから問題のある商品を引き取って消費者に届ける「1.5次流通」を作り出しました。

佐藤 その言葉も、関藤さんが作ったそうですね。

関藤 はい。これがうまく機能するのは、誰も損をしないからです。メーカーは、こうした仕組みに参加することで廃棄費用を抑えられるだけでなく、フードロスに取り組んでいることをアピールできる。また消費者は商品を安く買えて、かつ社会貢献を実感できます。そして私どもは、事業としてお金を稼ぎながら、社会課題の解決に貢献できる。つまり「三方よし」の仕組みです。

佐藤 関藤さんは住金物産(現・日鉄物産)という歴史ある会社の商社マンでした。入社当時から起業しようと考えていたのですか。

関藤 そうではないですね。ただ起業がすごく遠くにあったわけではありません。私の母方の祖父は、戦前、大陸に渡って南満洲鉄道に勤め、戦後は税務や会計などについての事務家向け書籍を出す出版社を興しています。また、幼い頃に両親と死別した父は、この世に生を享(う)けた意味を問い続け、小さな頃から私に社会のために命を使うよう言ってきました。だから何か社会の役に立つことをしなければならないとは思っていた。

佐藤 家庭の中の価値観は、人生に大きな影響を与えます。

関藤 そうした下地がありましたが、具体的なきっかけの一つは、阪神・淡路大震災なんです。

佐藤 もともと関西のご出身ですか。

関藤 ええ、実家は大阪の豊中市です。あの時、阪神高速道路が崩れ落ちたのをテレビで見て、これはマズいと思った。たまらずバックパックに手近にあった物を詰めて、被災地に駆けつけました。

佐藤 当時はもう社会人でしたか。

関藤 大学4年生で、商社に内定し、卒業を待つだけの時期でした。

佐藤 発生したのは1月17日でしたから、大学時代の最後の2か月半をボランティア活動に充てた。

関藤 ええ、でも一日救援活動をして帰ってくると、強い無力感を覚えるんですね。一人の思い、一人の力だけではどうにもならない。また、これをいつまで続けられるのか、内定している商社を辞めてまで救援活動ができるのかなど、日々自分に問いかけていました。

佐藤 救援を仕事にでもしない限り、ずっと活動を続けるのは無理です。

関藤 その通りで、社会支援をしたいという気持ちはみんなにある。でも現実的にそれを行動に移し、やり続けることは難しい。じゃあどうすればいいのか、それをすごく考えました。そしてその気持ちをきちんと取り込むスキームが必要だと考えるに至ったんですね。

佐藤 現場から制度設計に行き着いた。

関藤 はい。だから商社に入ってどこに配属されようとも、仕組みに注目しようと思ったのが、起業への第一歩です。

佐藤 例えば、フードバンクで食事を配る場合、数十人規模なら簡単にできます。でも数千人となると仕組みが必要となる。クラダシのように制度に落とし込んでしまえば、一度に支援できる数が、3桁、4桁と違ってくるということですね。

関藤 そうです。私どもはフードバンク支援も行っていますが、安全性と安定性、公平性にも欠ける部分があります。何かの食品を100個届けるとして、置き場や人手がないために、何度かに分けて送る必要が生じたり、ここには送れてあそこには送れないといった事態が出来(しゅったい)する。また際限なく送り続けることもできないわけです。でもそこは仕組みを作ることでかなりの部分が解決できます。

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