岡田阪神が38年ぶりに日本一! 過去10年の“地道なドラフト戦略”が栄光に繋がった理由

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打線のカギは“下位から上位”への繋がり

 そして、第7戦までもつれ込む死闘となった日本シリーズで光ったのが、岡田監督の采配だ。改めて野手の個人成績を見てみると、レギュラーシーズン中に得点源となっていた大山と佐藤の2人が揃って打率1割台と低迷しており、決して狙い通りの戦い方ができていたわけではない。

 第5戦以降は佐藤の打順を下げている。ただ近本、中野、森下翔太、大山という上位4人は7試合を通じて固定して戦い、森下はチームトップの7打点をマーク。大山も苦しみながら第4戦ではサヨナラタイムリーを放っている。不動の4番が不振の中でルーキーを3番で使い続けるというのは勇気がいったはずだが、森下の状態が悪くないと判断して起用し続けたのは見事だった。

 また、もうひとつ打線で大きかったのが、下位から上位への繋がりだ。シーズンでも8番を打つことが多かった木浪聖也はこのシリーズでも打率4割と好調で、打順を上げるべきという声もあったが、そのまま固定して起用し続けている。その結果、木浪がチャンスを作って近本、中野の1,2番で返すというパターンも大きな強みとなっていのだ。この“もうひとつの”得点源が機能していたからこそ、森下、大山を動かさずに戦えたという部分はあったはずだ。

両チームとも投手陣は不安定だったが

 結果としてオリックスと大きな差をつけることになったのが投手起用だ。今シリーズ全体を通して言えたことは、シーズン中のような投球をできた投手が少ないということだ。オリックスでは山本由伸が第1戦で打ち込まれ、第2戦に好投した宮城大弥も第7戦では試合を作ることができなかった。また、阪神も第1戦で抜群の投球を見せた村上が第6戦では山本に投げ負けている。リリーフ陣も両チームともシーズン中と比べると、不安定な内容の投手が目立った。

 このような状況の中で、オリックスはいつも通りの投手起用で乗り切ろうとしたが、宇田川優希、山崎颯一郎、比嘉幹貴、阿部翔太、ワゲスパックといったリリーフ陣が踏ん張り切れずに失点。一方の阪神は、西勇輝、伊藤の2人をリリーフに回すスクランブル体勢で中継ぎ陣の負担を減らしたのだ。また故障で6月を最後に一軍登板のなかった湯浅京己を重要な場面で起用し、期待通りの働きを見せたことも非常に大きかった。

 普段の戦い方に徹した中嶋聡監督の方が采配としては“王道”であり、岡田監督の采配にはリスクも伴っていたことは確かだが、3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも大谷翔平(エンゼルス)が決勝戦の最終回に登板して試合を締めているように、短期決戦では、いつもと違う投手起用が機能することもまた確かである。その点では、今回のシリーズでは岡田采配に軍配が上がったと言えそうだ。

 前述したように2003年、2005年のリーグ優勝は“外様”の選手が中心となったものであり、主力もベテラン、中堅が多かったが、現在の阪神は投手も野手もまだまだ若く、今後の成長が期待できるチームでもある。

 岡田監督の年齢を考えると長期政権ということは考えづらいが、来年以降もしばらくは阪神がセ・リーグ、そしてプロ野球全体の中心となることも十分に考えられる。そんな印象を残した日本シリーズだった。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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