オーバーツーリズムに「アニメの聖地」はどう対応しているか 製作者と地元自治体が練る秘策の数々

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 2023年5月に新型コロナウイルスが5類に移行して以降、観光業界は活気を取り戻しつつある。国内だけでなく海外からの観光客の需要も戻ろうとしている。【河嶌太郎/ジャーナリスト】

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 日本政府観光局(JNTO)が発表した2023年9月の訪日外客数は推計値で約220万人にのぼり、19年同月比で96・1%とコロナ禍前の水準に戻りつつある。

 多くの国からの観光客数が過去最高ペースとなった一方、福島第一原発事故の処理水問題などの理由で中国からの観光客は19年の約4割にとどまっており、観光客数はまだまだ伸びる可能性を持っている。

 特にアニメや漫画、ゲーム作品の舞台やゆかりの地を巡る動きは海外の観光客からの人気も高く、日本政府が観光施策として力を入れている分野だ。「聖地巡礼」や「アニメツーリズム」とも呼ばれるが、「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」も観光庁主導で進められている。

 これはアニメツーリズム協会が選定しているもので、毎年国内だけでなく世界中のファンによる投票によって、その年のアニメ作品の舞台地88ヶ所を協会が選定するものだ。最新の2023年版では、88作品のほか、東京都世田谷区の「長谷川町子記念館」や、鳥取県境港市の「水木しげるロード」など、26の観光施設も選ばれている。

 海外のアニメファンが作品などから日本語を学んで訪日し、「聖地」と呼ばれるアニメの舞台地で、現地住民と交流を深める例も珍しくない。

オーバーツーリズムの懸念

 例えば、コロナ禍が始まった20年4月から5月にかけて、日本中でマスク不足になった。この時、静岡県沼津市や市内の施設に、中国から計1万枚以上のマスクが寄贈された。これは沼津市がアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台になっており、その交流から生まれたものだ。

 このような交流が生まれているアニメの「聖地」は全国にあり、国内だけでなく海外からもリピーターが訪れる魅力を持っている。

 最初は観光目的だったものが、何度も通ううちに自分の居場所を見出すようになり、中には「聖地」に移住してしまう人もいる。

 きちんとした統計データはないが、『ラブライブ!』をきっかけに沼津に移住した人は少なくとも100人以上にのぼるとみられている。このほか、海外のアニメファンの中には日本国籍を取得し、帰化してしまう人もいる。

 一方、アニメの舞台となる場所は、本来は観光地化されていないところが多い。そうなると懸念されるのが、その場所の許容量以上の観光客が訪れてしまう「オーバーツーリズム」の問題だ。

 オーバーツーリズムの代表例といわれるのが、神奈川県鎌倉市の江ノ島電鉄・鎌倉高校前駅近くの踏切だ。ここは人気漫画『SLAM DUNK(スラムダンク)』のテレビアニメのオープニングに登場したことから、「聖地」として観光地化されていった。

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