生涯で8千万円を風俗につぎ込んだ「エロい知人」が語っていた葬式のプラン(中川淳一郎)

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 動揺で手が震え続ける中、この原稿を書いています。こんなことあるんですね。昨年5月、私が住む佐賀県唐津市まで来てくれた武道家・Aさんが亡くなりました。唐津の私の友人とも仲良くなり、その時たまたま来ていた23年来の同業者・江頭紀子さんとも意気投合。翌日はA夫妻と江頭さんはサザエを食べに海へ行きました。その後もA夫妻と江頭さんの交流は続き、江頭さんが書いた『恋するラオス』という本を20冊も買ってくれたそうです。

 また、唐津で会ったみかん農家・山崎幸治さんは「叫人フェス」という音楽イベントを毎年開催しています。このフェスのオリジナルTシャツを毎年作っているのですが、売れ残った15枚を買ってくれました。自身が運営する道場の子供たちにあげるというのです。

 今振り返ると、この「爆買い」は自分の人生の終わりが迫っていることに気付き、人に親切をしたかったのかな、と思えるんですよ。

 別れ際、「本当に楽しい時間をありがとうございました。また唐津に来ます」と言って記念撮影をしました。その後闘病生活に入ったのですが、また来ることを励みに生きていたとAさんの奥さんから聞きました。それはかなわぬ望みとなったわけですが、本稿を書いている翌週に奥さんが唐津に来ることになりました。また、皆でお迎えします。そして、奥さんにはAさんの思い出をたくさん話してもらい、そして泣いてもらいます。

 われわれのことをAさんはここまで良く思ってくれていたんだな、という感謝しかありません。となれば、自分が死ぬ時のことも考えなくてはいけない。希望することや感謝は公言しておく方がいいわけです。カネもバンバン使う。そうすれば多くの人が自分のことを覚えていてくれる。

 学生の時から世話になっていた大学の職員がいるのですが、同氏も死ぬ時のことを考えていました。全然モテない人で、生涯で8千万円も風俗につぎ込んでいたスケベ男でした。いわゆる「素人童貞」ですが、本当は知人とエロいことをしたかったようで、彼は葬式のプランを教えてくれました。

「僕の葬式は皆が苦笑するようなものにしたいんだよね。事前に吹き込んだ僕の肉声で『〇〇さん、エロいことしたかったです』と次々と名前を言っていき、名前を挙げられた人が困惑したりあきれたりしてほしいんだ。要は死後、告白するってことなんだけどね。ひたすらバカバカしい葬式にしたい。そうすれば悔いはない」

 しかし彼はパーキンソン病を患い、体の自由が利かなくなっていきました。そしてある日、急死したのです。享年58。遺体を見たのですが、こめかみのあたりが紫になっていました。突然倒れ、何か硬い鋭角なものに頭をぶつけたのが死因だと思います。遺体安置所に彼の同僚(女性)と一緒に行ったのですが、バカバカしいエピソードが山のように出てきてつい一緒に笑ってしまいました。

 例の「死後の告白」のことを彼女に伝えたら「こいつ、私とヤりたい、って言ってたから『死ぬ直前だったらいいよ』って言ったんだよね、ハハハハハ」なんて言う。なんだ、生前も言っていたのかよ!

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年10月19日号掲載

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