「9.11は捏造報道」という陰謀論に思うこと 「多くの人が亡くなっている以上、せめて追悼の気持ちはもってほしい」(中川淳一郎)

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 2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが起こりましたが、思えばあの時が自分にとってライター・編集者デビューでした。飛行機が突っ込み、世界貿易センタービルが崩れ落ちる様をテレビで見ていました。すると、朝日新聞から電話が来ました。当時「seven」という若者向けタブロイド紙があったのです。そこの編集部に私の会社員時代の先輩・嶋浩一郎氏が出向していて「明日、始発電車で築地まで来い!」と言われたのですね。

 とにかくこの特集をソッコー作らなくてはいけない。無職だった私にもついに仕事が来たのです。そこからモノカキ人生が始まったわけで、嶋さんには本当に感謝しています。

 さて、この同時多発テロ、アメリカはこの後、テロの首謀者とされたビン・ラディンをかくまうタリバンのアフガニスタンを攻撃し、大量殺りく兵器があるとされたイラクにも侵攻しました。いや、ビン・ラディンとオマルの二人を拘束すればよかったんじゃないんですか? 結局イラクでは大量殺りく兵器は出なかった。しかし、アメリカは自国の正当性を主張し続ける。

 こうして真面目な話を書きましたが、本稿で主題にしたいのは「ひょんなことから人生は好転する」ということです。私は9.11の時はほぼ無職でした。しかし、この記事に携わったことで、モノカキとしての仕事がバンバン寄せられるようになったのです。

 この時は私は英語ができるということもあり、アメリカのイスラム教関連の研究者に電話をしまくり、コメントを取りました。皆さん、「本当に悲しいことです。しかし、イスラム教全体を悪く言わないでほしいです」といったことを述べていました。

 当然その主張通りに私は原稿を書いたものの、同時多発テロについてはやっぱり許せませんよね。昨今、「アレは捏造報道だ」みたいなことをネットで書く人もいます。でも実際、世界貿易センタービルはなくなり、今、新しいビルができています。陰謀論はやめてください。

 そして、この後に開催されたアメフトの「スーパーボウル」では、世界的バンドU2のハーフタイムショーが行われました。そこでは、9.11の犠牲者の名前がスクリーンに表示されたのです。

 本当にこの世の中は何が起こるか分かりませんし、どれだけ陰謀があるかは分かりません。しかし、9.11については間違いなくあの巨大ビルはぶっ壊れた。突っ込む飛行機はなく、爆弾が仕掛けられたんだなどと述べる方もいますけれど、一体何を主張したいのか。

 私は9.11をきっかけにモノカキとして活動の場を与えられました。だからこの事件については深い思いを持っています。

 今のウクライナ戦争でもやたらと陰謀論を述べる方が多いですが、当事者双方が自分にとって都合の良いことを述べるのが戦争というもの。9.11もアフガニスタン戦争も本当のことは分かりません。ただ、死んだ人が多数いることだけはキチンと認識していただきたいし、せめて追悼の気持ちをもってもらいたいと思う次第です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年9月28日号掲載

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