「多様性」が招いた社会混乱… 人権大国フランスの暴動から日本が学ぶべきこととは?

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植民地政策と家庭の崩壊

 暴動から2カ月が経過した8月、マクロン大統領は、仏週刊誌「ルポワン」の独占インタビューで、「暴徒化した若者たちの90%はフランス生まれだ」と述べ、移民扱いを回避。だが、「移民の数を減らさなくてはならない」という、これまでのフランス政府の理念に反する発言もしている。

 ナショナリズムの研究家で、国際関係戦略研究所(IRIS)のジャン=イブ・カミュ(65歳)は、「なぜ近隣諸国では暴動が少ないのか」との私の質問に対し、こう答えた。

「イタリア、ドイツ、オランダとは異なりマグレブ(北アフリカ)諸国やアフリカでの植民地の歴史がフランスにはある。支配された国々は、今も復讐の意識が強い。だが、私の世代には暴動はなかった。世の中で離婚が増え、父親像のない移民の2世代目や3世代目が問題になっている」

 植民地政策の複雑な背景と、家庭の崩壊がフランスの障壁につながっていることは疑いのない事実だ。しかし、当然ながらすべての移民が社会を破壊しているわけではない。

「この国の問題の根源は…」

 著書『もうひとつの「異邦人」 ムルソー再捜査』(水声社)などの作品で知られるアルジェリア人作家のカメル・ダーウド(53歳)は、同胞からの批判を覚悟の上、こう明かした。

「アルジェリア系フランス人の郷愁が、この国の問題の根源です。アルジェリア系移民は、唯一、定住を拒む国民で、帰郷へ思いをはせて生きている。その精神が代々引き継がれ、新世代は『帰れない』苦しみを引きずっている。そして何よりも、彼らの中ではまだ、フランスからの独立戦争が続いている。フランスは、仲間か敵か、その二者択一しかないのです」

 各都市のシテから戻り、シャンゼリゼ通りを歩いてみる。ルイ・ヴィトンのバッグを手に持ち、シャネルの黒縁眼鏡をかける女性。1杯6ユーロ(約950円)のカプチーノを啜る会社員、テラスでカキと白ワインを楽しむカップル、最新のアストンマーティンを運転する若者……。そこには確かに、花の都が存在していた。

 夢のないシテから、その「夢物語」の世界は目と鼻の先。服も靴も買えない腹を空かせた少年や少女がシャンゼリゼ通りに繰り出し、同年代の子供たちが両親を前にレストランでクレープを頬張る笑顔を見て、彼らは何を思うのか。この魅惑の都市が、彼らには残酷すぎる。

「多文化主義」を貫いた英国やオランダと違い、フランスは移民を国家理念に従わせる「同化主義」を選択した。「自由」と「平等」は、育つ環境による程度の差こそあれ、全員に与えられている。だが、最大の壁は、同じ価値観を持って生きる「博愛」を実現することだ。その「フランスの価値観」に順応できない者に対し、フランス社会は冷たい。

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