「多様性」が招いた社会混乱… 人権大国フランスの暴動から日本が学ぶべきこととは?

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警察官の「正当防衛ではない発砲」が増加

 それにしても、約20万人の若者はなぜ、乗用車約1200台、学校やビル2508棟を燃やし、警察官や消防隊員約700人を負傷させるほどの暴動を繰り返したのか。

 射殺されたナエルの母親は、1970年代に建てられた風変わりなビル群の一棟の中で暮らしている。公共放送「フランス2」の取材に対し、「警察を責めたいとは思いません。息子の命を奪った一人の警察官を非難します。息子を逮捕するなら、別の方法があったはずです」と語った。

 フランスでは、一般市民が警察に射殺される事件が年々、増加傾向にある。独立系新聞「バスタ!」(2023年6月28日付)の調べによると、18年から23年8月までの間に、警察官の「正当防衛ではない発砲」で命を落とした市民の数は、78人に上っている。

 10年からの累計は141人(日本では、同類の射殺事件は戦後3件のみ)。急進左派「不服従のフランス」のジャン=リュック・メランション党首は、〈(警察の)職務質問拒否による死刑に反対する〉とツイッター上で発言した。なお欧州では、ベラルーシ以外、死刑は廃止されている。

「人種差別が明らかに存在」

 ナエル同様、警察官の銃弾で命を落としたアラブ系フランス人少年の父親、イッサム・エル・カルファウイ(50歳)は、今夏、南仏マルセイユ市内のカフェで、今回の暴動について振り返った。

「この国には、人種差別が明らかに存在します。移民といっても、私たちはフランス人です。この国で生まれ育っている2世や3世ですし、大半は国に適応しています。しかし、白人社会がアラブ系フランス人に拒絶感を持っているのです」

 幼少期から差別を受け続けてきたイッサムのこの言葉は、フランス社会の複雑さを的確に表現している気がした。差別の種類は異なるが、長年、第二の母国との思いでフランスに適応してきた私も、「よそ者」の存在であり続けている感覚は拭えないままだ。

 世界の人々が思い描いているフランスとは、パリだろう。だが、わずか105平方キロと限られた土地面積の都は、「夢物語」の世界で、それ以外の都市、つまりほぼ全国土のほうがフランスの「現実」といえる。私は、暴動鎮静後も緊迫した状況が続くマルセイユを訪ねていた。

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