亡国・日本へのアンチテーゼとなった「VIVANT」 世界に日本産ドラマを発信する意気込みを感じたポイント三つ

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 今夏、最も熱を発したというか、熱を奪った「VIVANT」。苦手な人が文句を言えなくなるほどの熱狂。逆にTBSはこれに注ぎ込みすぎて、カラッカラに枯渇したのでは。なんて斜に構えて皮肉を書きたいところだが、マジで面白い。堺雅人という多面体俳優をあらゆる角度から楽しむことができる名作だと思う。

 そして、堺が演じる乃木憂助が属している、政府非公認の諜報機関「別班」にも興味津々。非凡な人材を選りすぐり、法律や倫理観に縛られずに動けるよう鍛錬、潤沢な資金で秘密裏かつ縦横無尽に活動できる。実在かどうかも含めて、みんな乃木と別班に夢中である。

 内容はいまさら解説不要。謎や疑惑の推理は優秀な考察班にお任せして、私が興味のある三つのポイントを。

 ひとつはジャパニズムの追求。ドラマの質も人材も、NetflixやDisney+にあっという間にもっていかれた民放局だが、世界に日本産ドラマを発信する意気込みは感じた。別班の連絡に神社と饅頭を使うとか、公安が神棚に祈るとか、赤飯を炊くとか、家紋の入った守り刀とか、満開の桜の下でハグとか、いちいち日本的。外国の人が見たら興味をもちそうな要素がふんだんに盛り込まれているわけで。歳時記かガイドブックか。くさしているんじゃないの、感心しているの。

 ふたつめ。架空の設定に込められたものに思いをはせる。別班は指揮系統がシンプルで、国家権力の影響が及ばない組織という点に、ちょっぴり浪漫を感じる。悪政で亡国の一途をたどるこの国で、別班の行動原理が気になるところではある。また、バルカ共和国の内乱が表現するものに戦慄を覚えた。モンゴル系(仏教)、ロシア系(キリスト教)、カザフ系(イスラム教)、中華系(共産主義思想)の四つの民族が対立し、内乱が勃発したという。さもありなん。日本のような資源も人材も持たぬ小国は、宗教や思想ではなく、大国の覇権争いに確実に巻き込まれ……と真面目に妄想してしまった。

 最後は定石だが、役者陣ね。堺雅人や役所広司は言うまでもなく、凄絶な過去を背負って生き別れた親子っつう設定に説得力をもたせた。この父子、できれば予定調和ではない、断絶や絶望、喪失感や罪悪感も味わってほしい。阿部寛は公安っぽくないが、公安という組織を間抜けに描いて別班のすごさを強調する中で、不可欠な人材だ。乃木の言う「鶏群の一鶴」になるほどとも思った。適材適所の役者陣の中でも、特によかったと思う4傑を。

 裏切るといえば迫田孝也ね。平和ボケと日本を罵る割に宇宙共通のクズっぷり。いかにもうさんくさいアリは、現地の俳優ではなく山中崇でなければいけない理由がよくわかった。そして劇中で最も頼れる警察官がチンギス(バルスルハグヴア・バトボルド)ね。鬼気迫る表情で容疑者を執拗に追う姿に、私は正義を感じたよ。うっかりLINEスタンプ買おうかと思ったくらい、富栄ドラムのキャラが立っていていい。演技というかあの笑顔が一服の清涼剤に。

 つうことで真摯に楽しみました、亡国の片隅にて。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年9月21日号掲載

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