「家でどうしても食べられない一品があるの」妻の浮気を咎めたら思わぬ反論が…44歳夫が何も反論できなかったのは何故か

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前編【「義母と妹は生姜焼き、僕はキャベツだけ。酒浸りの父は、ある日突然…」壮絶な10代を送った44歳男性の大きすぎた後遺症】からのつづき

 高野良智さん(44歳・仮名=以下同)は、9歳のときに母を亡くし、以降、義母から虐待を受けて育った。その後、父は自ら命を絶ってしまう。「親の人生の巻き添えになって自分をダメにしたくなかった」という彼は、叔父の助けを得て、工業大学に進学。水商売の店でアルバイトをしながら卒業し、機械関係の企業に就職してようやく人生のスタート地点に立ったと実感したという。

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 社会人になってからも、良智さんはなかなか恋愛ができなかった。誰かを好きになることがよくわからなかったのだという。

「ときおり風俗に行っていました。中には疑似恋愛みたいになる子もいて、そのくらいの関係が自分にはちょうどいい気もしていたんです」

 25歳のころだった。夜更けに繁華街をぶらぶらしていると声をかけられた。学生時代、アルバイトをしていた店で働いていた女性だった。彼が卒業する前に、彼女はいつしか店を辞めていた。懐かしさから、ふたりでそのまま飲みに行った。

「当時の思い出話とか、彼女自身のこととか、いろいろ話しましたね。彼女の本名が夏海だということも初めて知った。夏海は『あの頃の良智くん、学生とは思えないほど落ち着いていて頼りになったよ』と言ってくれました。僕は覚えてなかったけど、しつこい客がいたとき毅然と対応してくれたのがうれしかった、と。僕は僕で、生活がかかっていたから必死だったし、働く女性たちを見下す客には我慢できなかった。自分もそうだけど、夜の店で働かなくてはいけない人は、みんなそれなりに事情がある。客だからってエラそうにするなよといつも思っていました」

 夏海さんにも目的があったと、彼は初めて聞いた。問題のある家庭で育った彼女は高校を中退、地元の悪い仲間とつるんで遊び暮らしていたが、あるとき補導された。迎えに来た祖母の涙を見て気持ちが変わったそうだ。

「それからまじめに勉強もして高卒認定試験に合格、さらに専門学校に行くためにお金をためようと水商売に入ったそうです。お金がたまったので店を辞め、今は資格を活かして仕事をしているんだとか。その日はたまたま職場の人たちと飲みに来て、みんな二次会に行くところを彼女は抜けて帰るところだったと」

 さらに話を聞いてみると、夏海さんも親から虐待されていたという。あけすけに語る夏海さんが羨ましかった。彼は「僕もそうだった」と言えなかった。

「普通の家庭」を知らない2人

 それからふたりはときどき会うようになった。夏海さんは名前通り、あっけらかんと明るいタイプで、良智さんを引っ張ったり背中を押したりしてくれた。

「職場の人間関係で悩んでいたときも、彼女は『あなたはあなたでいいのよ。人間関係なんて、ちょっと引いて見てればどうにかなるって』と励ましてくれた。険悪な関係に巻き込まれていただけだったから、そうか、当事者だと思わなければいいんだと気がついた。その後、僕はどちらにもつかずに中立でいることができた。彼女の話を聞くと、僕とたいして変わらない家庭で育っているのに、どうしてあんなに明るくいられるのか不思議でした。彼女と一緒にいると安心できた」

 それが恋へと発展していった。もう彼女がいなければ生きていけない。彼はそう思いつめて結婚してほしいと言った。

「私、あなたが思うよりずっと世間からズレていると感じるの。あなたのことは好きだけど、結婚するならもっと普通の人としたほうがいい。彼女にそう言われると、ますます、いや、僕にはあなたが必要なんだと拝み倒すようにしてOKの返事をもらいました。そのとき、僕は気づいてなかったんです。彼女も僕も、『普通の家庭』を知らないことに」

 ふたりとも結婚を祝ってくれる家族はほとんどいなかった。彼は久しぶりに叔父を訪ねようと思ったが連絡がつかなかった。勤務先に連絡すると、半年ほどまえに退職したと言われた。夏海さんは唯一の肉親だった祖母を亡くして、誰もいないという。

「僕は学生時代から親しくしてくれた男友だちと会社の同僚、彼女は勤めていた店の同僚や今の会社の同僚など、本当に親しい人だけを呼んで簡単な報告会をしました。全部で10数人。温かい雰囲気でした。後日談だけど、そのパーティが発端となって、1年後に僕の学生時代の友人と彼女の友人が結婚したんです」

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