踏切トラブルで「ことでん」社長が辞任 交通再編の旗手でも苦境…ローカル線に未来はあるか

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ことでんだけの問題ではない

 鉄道事業者と行政は、これまで共通の問題意識を抱えながらも、足並みを揃えることができなかった。なぜなら、民間企業である鉄道・バスの経営に介入すると受け止められていたからだ。

 しかし、公共交通は単なる一私企業の問題ではない。住民の生活を大きく変える。それだけに、本来なら積極的に官も協議に参加しなければならない。ようやく官民の連携が始まり、ことでんと高松市の連携は利用者の減少に悩む地方鉄道の先行事例として見られるようになる。

 筆者は行政を専門とするライターだが、非都市圏の自治体では長らく公共交通の維持が悩みになっていた。それだけに、高松市とことでんが連携して交通再編に取り組み、一定の成果をあげたことは交通問題を抱える地方自治体にとって一筋の光明に見えたことだろう。

 地方都市から模範生と見られていたことでんでも、安全を担保する鉄道施設の更新にまで手が回らない。それが現実なのだ。

 問題となった不作動踏切は2003年製で、メーカーは耐用年数を10年としていた。その一方で、ことでんの社内規定は25年を更新周期に設定していた。15年の差は、ことでんが設備改修費の工面に苦慮していたことを窺わせる。

 筆者は、これまでに何度もことでんを取材している。また、直近では2022年の夏に高松市まで足を運び、ことでんに乗りまくり、そして沿線を丹念に歩いている。以前からことでんの車両・鉄道施設が他社に比べて古いという印象は抱いていたが、直に目で見るとその思いは強くなった。

 ことでんで起きた踏切不作動は、地方鉄道が共通して抱える経営難、そして設備の更新にまで手が回らないという現実を突きつけている。施設の更新ができないことは、ことでんだけの問題に矮小化されるものではないだろう。

 鉄道を安全に運行することは、鉄道事業者や利用者だけではなく、自動車や歩行者の安全にも関わる。今回の一件は第一義的な責任はことでんにあるとしても、全責任を押し付けて収まる話ではない。仮に、鉄道事業者に踏切設備の全責任を負わせるなら、鉄道事業者は全踏切を閉鎖するだろう。極論ではあるが、踏切を全廃すれば事業者の金銭的な負担は減る。その一方で、線路の向こう側へと行き来できなくなる。皺寄せを食うのは踏切道の往来ができなくなる地域住民だ。

 国土交通省は踏切除去を推進するため、立体交差事業に多額の助成金を出している。線路と道路の立体交差が実現すれば、当然ながら事故はなくなる。また、歩車分離が図られていない踏切道に関しても、国交省は安全対策としての改良費を補助している。

 立体交差事業は事故防止だけを目的にしたものではないが、地域住民の安全確保という意味では踏切の更新費用も同じだろう。それを踏まえれば、国交省や地方自治体が踏切の更新費用を負担する意味も十分にある。

 今回の件を引き金に、窮状を訴える地方の鉄道事業者たちが「沿線住民の安全のためにも、踏切更新の費用を補助してほしい」と声をあげる事態も考えられる。

 そのとき、政府や地方自治体は、この問題と真摯に向き合えるだろうか?

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

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