「自作ラーメン」は最高の老後の趣味になる 「化学調味料=悪」論はそろそろやめませんか?(中川淳一郎)

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 最近ラーメンスープを自作するようになりました。きっかけは7月10日ごろ、佐賀県唐津市七山の豪雨で発生した土砂の撤去を手伝ったこと。この災害による停電で、地元の鶏卵農家が販売用に冷凍庫に入れていた親鶏の肉が半解凍状態に。「これは売り物にならない」と、この農家が近隣住民に配っていたのです。「カネはいらんよ」と言われましたが、「大変ですから買います」と7袋4千円で購入。

 この後、街に戻ってさまざまな飲食店に配ったのですが、「親鶏は固いから圧力鍋で煮込んだ方がいい」とプロから聞きました。ナイスなだしが出ると判断し、鶏とネギの青い部分とショウガとニンジンを圧力鍋で1時間煮込むと見事なだしができました。タイのチャイナタウンで買った乾燥シイタケと乾燥エビ、そして「茅乃舎(かやのや)」のアゴダシも入れたら素晴らしい味に。塩ダレを作り、それと合わせました。

 かつて漫画家の東海林さだお氏がラーメンのスープ作りにハマったとエッセイで書いていました。この気持ち、よく分かるんですよ。何しろ、いかによりおいしくするか、と工夫をするのが楽しくて仕方がないのです。

 人間、ある程度勉強やら仕事やらのチャレンジが終了したら、その後は趣味にチャレンジをしたくなるもの。だから「日本百名山全制覇」とかの目標を立てるわけですね。ラーメンのスープ作りについては、終わりがないチャレンジなんです。これは本当に老後の人生で素晴らしい趣味になると思います。

 今は鯛のカブトとアラでだしを取ることにハマってます。数百円で買えるのですが、コレを大鍋に入れて煮続けると本当に味わい深いだしができる。ラーメンのスープにもできますし、みそ汁のベースにもできる。ナンプラーと塩と昆布茶の粉末を丼に入れ、ここにこのだしを入れると、まぁ~、見事なラーメンスープが完成。さらに味の素を入れると極上の味に仕上がります。

 昨今ラーメン業界では「無化調」という言葉がはやっています。要するに味の素やハイミーを入れないラーメンということですが、入れた方がラーメンはおいしいのではないでしょうか。

 今年2月から5月までタイにいましたが、ラーメン店の店主はダイナミックに味の素を丼にぶち込んでいました。漫画「美味しんぼ」が散々「化学調味料」として批判していましたが、味の素社は「サトウキビから味の素」と自然由来であることをアピール。しかしながら「無化調」という言葉が市民権を得た以上、味の素は悪者扱いされることになったのです。

 いや、高菜漬けに味の素とスリゴマをかけてみてくださいよ。こんなにおいしい漬物はない。これは北九州市に住んでいた祖母(享年97)が絶賛した食べ方です。

 この「化学調味料=悪」論、本当にやめませんか? 何しろほとんどの市販されている調味料はなんらかの「化学」を使って作られているわけですよ。それらは批判せず、味の素やハイミーのみを批判する。そうした方々は、購入したすべての食品の成分表示表を見てください。「うぎゃっ、こんなもん使ってるの!」と思うこと請け合い。でも、あなた死んでませんよね。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年8月17・24日号掲載

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