一瞬でガレキになった歴史都市…トルコ大地震から半年、被災地を「食べ歩く」

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 5万人以上の犠牲者を出したトルコ・シリア大地震から、8月6日で半年。当初、日本のメディアも被害を大々的に伝えた現地・トルコ南東部は今、どうなっているのか。中東の社会・文化をSNSなどを通じて発信している中東コラムニストのカフェバグダッド氏が、独自の目線で被災地を歩いた。

 スパイスがたっぷりとまぶされたぶつ切りの羊肉が串刺しにされている。炭が赤々と燃える大型コンロでじゃんじゃん焼かれていく。もうもうと煙を吐き出し、香ばしい匂いを周囲にふりまいている。見るだけで食欲が沸く光景のはずだが、見るだけで満腹を感じてしまう。世界のケバブ屋をいろいろ見てきたが、これまでになく五感をくまなく刺激する、圧倒的な風景がそこにあった 。

 ここはトルコ南東部の都市ガジアンテップ。週末の土曜日、夜のケバブレストランは大勢の家族連れでにぎわっていた。広場にせりだすように並べられたテーブル席は、8割がた埋まっている。筆者は、3日前に日本を発ち、華やかな巨大都市イスタンブール入り。国内便で2時間弱かけて着いたばかりだ。この地を踏むのは去年の10月以来。4か月前の2月6日の大地震で、未曽有の被害を受けたトルコ南東部地域を再訪するためだった。その時会った人々がどうしているか、街はどうなったのか、とにかく気になってやってきた。

 店の名物、「ガジアンテップ・ケバブ」という名のひき肉のケバブをショーケースごしに指さして注文。まず、トルコのヨーグルトドリンク「アイラン」をぐっと飲みほす。日本のインド料理店で出てくる「ラッシー」とは違って甘くなく、強い酸味と塩気が特徴。日中の発汗で失われた塩分が、体にしみ込む感覚だ。金属製カップのひんやりとした触覚は涼を与えてくれる。前菜だというサラダ3皿と、ひきわり小麦や野菜などをこねたつみれ団子のような「チーキョフテ」などが並ぶ。談笑しながらケバブをほおばっている家族連れを横目でながめつつ、メインデッシュのケバブまで食べきれるか、と不安が募る 。

 ガジアンテップは大都会イスタンブールから遠く離れた内陸の地方都市で人口は約200万人。「ガストロノミー(美食)都市」を打ち出すなど売り出し中の観光地だ。一方で内戦が続くシリアまではわずか数十キロの距離にあり、2011年のシリア内戦開始以降、戦火を逃れた住民が国境を越えて押し寄せた。今回の地震でもシリアから被災者が多く逃れて来ている。市内の一角には巨大なシリア人街がある。コロナ禍明けで、海外からの観光客も続々と戻り、旧市街地のバザールは日本のインバウンド観光地を思わせるにぎわいぶりだ。

 観光客と避難民で混沌としているが、大地震の傷跡とは出くわすことはなかった。「大部分の市民は、日常生活に戻っている」。この街にいるだけなら、そんな結論で旅行が終わったかも知れない。

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