JRの乗務員室に侵入した17歳男子高校生 不謹慎ながら感じた「好きなものに熱中できる人生は幸せなのでは」(中川淳一郎)

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 出ました出ました、珍ニュース! JR八高線の運転席に侵入した17歳の男子高校生が家裁に書類送致されたのです。高校生はスーツを着用して自作の名札を付け、JR東日本のグループ会社の社員を装ったといいます。NHKの以下の報道が実に味わい深い。

〈(東京都)昭島市の拝島駅のホームにいたところ、社員だと思い込んだ乗務員から「乗りますか」と声をかけられて運転席に侵入したということです。そして、埼玉県飯能市の東飯能駅までのおよそ30分間、運転席で乗務員と会話するなどしていたということです〉

 その後彼は別の電車に乗り込もうとし、別の乗務員が不審に思い声をかけ、この珍事が発覚したのです。運転手ものんきですし、この鉄道大好き少年も大胆不敵過ぎる。一体30分間もこの二人は何を話したんですかね。

 運転手「今日は視察ですか?」

 少年「そうですね。われわれはより安全な運行を心がけなくてはいけませんからね」

 なんて会話をしていたのかもしれませんが、この少年があえて「子会社社員」を装った理由が知りたいです。恐らくその会社の社員であれば、運転席に同乗することが可能であることを知っていたのではないでしょうか。それだけ熱心な客であり鉄道オタクなわけです。

 ウェブメディア「デイリーポータルZ」は「地味な仮装限定ハロウィン」という企画を行いましたが、2016年は「駅前でアンケートをとる女性」「ペンギンの飼育員」「交通量調査」「会社に泊まった人と家に帰れないプログラマ」などが登場。この企画を今年もやるのであれば、この少年は「JR東日本の子会社・〇〇社の従業員の仮装」で参加してもらいたいものです。

 書類送致されたことは不祥事ではあるものの、一つのことにここまで熱中できる人生ってのも幸せなのでは、と不謹慎なことを思ってしまいました。

 ちなみに私はJR出身者を二人知っています。一人は、講談社の社員で、現在は某メディアの編集長をしています。私が同社のムックを作っていた頃、内定者としてそのムックの編集業務に携わっていました。東大卒の彼の昔からの夢は新幹線の運転士になること。順調に駅員→車掌を経て新幹線の運転士になりましたが、東大卒の宿命か。本社勤務をさせられることになりました。しかし、彼はあくまでも新幹線の運転をするためにJRに入ったのだから、退社を決意。そして講談社に入るのです。なんつーキャリアだ。しかし、彼は今の仕事、すごく向いています。

 もう一人は佐賀県唐津市の居酒屋「しあわせの駅」のたーしー店長です。彼は元々JR九州の駅員・車掌・運転士を務めた後、居酒屋の経営を開始しました。鉄道会社出身だったら、観光系の仕事に就くのかな、と勝手に思っていたのですが、二人ともまったく別分野で活躍中。おかげさまで講談社の彼からは時々仕事をもらえますし、たーしー店長のアジフライも絶品。あと、ミュージシャンの藤井フミヤさんは国鉄出身ですね。

 冒頭の男子高校生は今回は珍騒動を起こしてしまいましたが、ぜひとも鉄道会社に入り、人々のためになる仕事をしていただきたいと思います。その後もいろいろな選択肢、あるよー!

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年8月3日号掲載

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