高校野球の「誤審騒動」で過剰なバッシング 現役審判は「このままでは成り手が減っていく」と大会運営に危機感

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審判の判断が優先

 しかし、今回の横浜対慶応戦で起きたことは、たとえビデオ判定があったとしても、そのままセーフと判断される可能性が高いのではないだろうか。

 ネット上では、このプレーの映像がアップされている。筆者はそれらを検証したところ、明らかにセカンドベースに触れていると判断できるものはなかった。メジャーやプロ野球のビデオ判定でも、このような場合は審判の判断が優先されることになっており、結果は変わらなかったのではないか。

 高校野球を担当している現役の審判は、ネット上で過熱するアマチュア審判へのバッシングについて、以下のように苦言を呈する。

「アマチュア野球の審判は、プロの審判を目指してやろうというものではなく、大半の人は野球が好きだから何かの形でかかわりたいという気持ちでやっています。報酬は交通費程度で、必要な道具やシューズなどは自己負担。お金という意味では、アルバイトにもなりません。夏は炎天下の中で立ちっぱなしのため、体調を崩すケースも増えています。それに加えて、最近は誤審と思われるものがあれば、ネット上で叩かれる。高校野球は特に影響力も大きいので、高野連に『二度と審判をさせるな』という抗議の電話があると聞きます。ただでさえ、(審判が)人手不足になっているのに、こういうことが続けば、審判をやってみようと思う人も減りますよね。選手を守ることはもちろんですが、審判がいなければ試合や大会は成り立たないわけですから、何かしら対策は必要ではないでしょうか」

見直すべきは“善意”に頼った運営

 高校野球ほど話題にはならないが、大学野球の現場でも審判の人手不足は深刻になっており、公式戦にもかかわらず2人で試合を担当することや、1人の審判が1日に複数の試合をこなすケースも見られる。また、夏の高校野球では体調を崩して試合途中で審判が交代するということもあり、審判を守るための対策が必要となってくるだろう。

 ビデオ判定も含めた新たな施策を行うなどという話になっても、設備的な問題から全試合で導入が無理だから行うべきではないという意見が根強いが、果たして本当にそうだろうか。

 甲子園の本大会だけでなく、夏の地方大会も注目度はアマチュアスポーツとは思えないほど高く、そのコンテンツの価値を最大限に生かして、収益性を大幅に向上させることは可能なはずだ。その収益を大会運営の改善に回せば、学生スポーツとしての理念は守れるのではないだろうか。“善意”に頼った運営を見直すべき時期に来ている。今回のことを良いきっかけにして、かかわるすべての人が納得のいく高校野球になっていくことを願いたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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