なぜ高校野球の「暴力監督」は現場に復帰できるのか…アマ球界の深すぎる“構造的な問題点”

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卒業後の進路への影響

 高校野球の地方大会が盛り上がりを見せているが、一つのニュースが大きな話題となっている。今年1月、部員への体罰を理由に解任された東海大菅生の若林弘泰前監督が、野球部の顧問として指導の現場に復帰したことが明らかになったのだ。これに対して、「また体罰をするのではないか」、「復帰するにしても時期が早すぎる」といった反対の声は根強い一方で、部員の保護者からは現場復帰を求める嘆願書が提出されていたとのこともあって、判断は学校と現場に任せるべきという意見も聞かれる。【西尾典文/野球ライター】

 今回は、体罰が明るみになった時期が、選抜高校野球の出場校発表の直前だったことや、指導の現場を離れて約半年という短期間での復帰ということもあって特に大きな話題となっているものの、これまでも体罰や暴言で一度解任された指導者が復帰しているケースは少なくない。失敗を糧にして指導方針を改めるケースももちろんあると考えられるが、チームは変わっても指導方針を大きく変えない指導者もいる。

 では、なぜそういった暴力的な指導で問題となった指導者が現場に復帰することができるのだろうか。それには甲子園出場などの結果以外にも理由があるという。ある高校野球の指導者はこのように話す。

「学校としては、もちろん甲子園出場というのはありますが、もう一つ大きいのは、その指導者によって部員を集められる点があると思います。実績のある監督は当然中学のチームとの繋がりも多い。学校側からすれば有望な選手だけでなく、生徒を集められるというメリットは大きいのではないでしょうか。もうひとつは選手の卒業後の進路です。大学進学についても指導者同士の繋がりで決まることが多く、実績を持つ指導者は当然そういう“出口”も多く持っています。保護者からすれば、そういう進路先を多く持っている指導者に子どもをあずけた方が安心というのはあるはずです。東海大菅生で保護者から嘆願書が出されたというのもそういう側面はあると思いますね」(私立高校の野球部指導者)

選手や保護者の意識にも問題が

 監督に求められるのは野球の指導よりも、「スカウティング」と「卒業後の進路相談」、そのように話す指導者も存在しており、技術指導やトレーニングはコーチとトレーナーが中心になって行っているというケースが少なくない。「選手を鍛えて、鍛えて」という監督のイメージは過去のものになりつつあり、「優秀な指導者=人脈が広い指導者」という考えが高校野球の世界で強くなっていると言えそうだ。

 教育の現場と言いながら、教育的でない指導者を学校経営のために雇っているのではあれば、学校側の問題と言えなくもないが、もうひとつ大きな問題は保護者や選手の意識にあるという。

「保護者も大学進学まで見越して高校を選ぶのが当然の時代になっています。高校側としては選手に来てもらうために進学実績を紹介しますが、もちろん全員が望む大学に行けるわけではありません。一学年に何十人も選手がいてもレギュラーは数人しかいないわけですから、控え選手は入学する前に紹介されるような、いわゆる名前が知られた大学に行くのは難しくなります。勉強もしっかりしてきた選手なら学力で狙うことはできても、野球の実力で高校に進学してきた選手はそういうケースは少ないです。そうなると、結局は進路についても指導者にお願いするしかない。多少理不尽なことがあっても進路のために我慢した方が得だという感情は働くでしょう。ただ、中には思い描いたような高校野球生活を送ることができず、途中でドロップアウト的な状態になってしまう選手が出てくることもあります。そういう選手が問題行動を起こすケースも多いですね。もちろん選手の進路相談、進路指導は指導者にとって重要な仕事ですが、保護者も選手も指導者に言われるがままで、思ったように上手くいかなければ“問題分子”になる、というのはやはり健全ではないと思いますね」(前出の私立高校の野球部指導者)

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