「刑務所に戻りたい」と出所直後、トラックで2人をひき殺した盛藤吉高被告の告白「最初から殺すつもりはなかった。死刑は嫌」捜査への不満も

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「避ける余裕はあったはず」

 裁判について話を向けると、それまでの口数の少なさが嘘のように饒舌になった。

「検察は、やったことを事実より大きく見せようとしているんです。当てて逃げようと思っただけで、殺す気はなかったのに、殺す気があったかのようにされてしまった。控訴審では、現場の状況から殺意を否定する根拠をまとめた交通事故調査会社の調査結果を弁護士が提出しましたが、証拠として認められなかった。社長の証人尋問だけが認められて、証言だけはしてもらうことが出来ました」

――“殺すつもりはなかった”と言っても、常識的に考えて加速した車で人にぶつかれば、亡くなる可能性があることは十分わかっていたはずではないか。

「その時はそれしか考えられなくなっていたんです」

――“戻りたかった”という刑務所内での生活はどんなものだったのか。

「刑務官に性格の悪いのがいて、8割は普通に接してくれるいい人なんですけど、その性格の悪い2割に当たると最悪なんですよね」

 盛藤は先の服役中、“刑務所所員への反抗”を理由に仮釈放の許可が出ず、満期出所となっている。犯行直前まで福島刑務所に入っていた暴力行為等処罰に関する法律違反の罪(懲役1年6月)のほか、2015年にも公務執行妨害、傷害及び器物損壊の罪(懲役1年10月)で実刑判決を受けており、福島刑務所で合計3年以上を過ごしている。

――福島刑務所以前にも前科前歴がある。

「交際しているような女性を迎えに行ってドライブをしていたら、その女性が友人に連絡して、誘拐・監禁で逮捕されました。それで2011年から、民間の刑務所である島根あさひ社会復帰センターに約2年半いました」

――女性が友人に連絡を入れたということは、強引な手段をとったのではないか。

「少しそういうところはあったかもしれませんが、ドライブスルーで彼女がトイレに行った時に友人に連絡したみたいで、その友人が通報したようです」

――その他はないのか。

「30歳ぐらいの時、恐喝で執行猶予が付きましたが、それは事故に遭いそう になって 、相手方と揉めたのが恐喝ととられたんです」

――2015年の公務執行妨害、傷害及び器物損壊は。

「パチンコ屋で店員と言い合いになって、店内にあったパネルをちょっと蹴ったら通報されて。その器物損壊は弁償することで話が付いていたんです。が、留置所で留置係と言い合いになった時、留置係が肩を押したので、“押すんじゃねえ!”と手を払ったら、留置係は無傷だったのに暴行したことになって、裁判では顔の骨を折ったっていう偽の診断書まで出されました」

――その後の暴力行為等処罰に関する法律違反は。

「元の勤め先に行った時、そこ反社の関係者がやっている会社なんですけど、会長の息子に帽子のツバがぶつかったと難癖をつけられて。子が暴力を振るわれたと嘘をついて、通報されて傷害事件で緊急手配されました」

――どこまで真実を語っているかは別として、その言い分を信じるならば、刑務所に入ること自体、納得いかなかったはず。にも関わらず、また刑務所に戻りたいと思うのはなぜなのか。

「外の世界では、前科者への差別もあるし、前科者に社会は冷たい。刑務所は、みんな囚人だから、弱い立場の者たちが助け合ったり協力し合って生活しているんです」

「直近で服役した2回とも冤罪だったわけじゃないですか。外の世界は正しいことが通らないから、戻りたいと思ったんです」

――朝から地域の清掃に出かけていた善良な一般市民が、見ず知らずの人間にひき殺されるというのは、あってはならない話である。自ら正しいことの通らない世界を作っているようなものではないか。

「結果的にはそうなってしまって、亡くなられた方には申し訳ないですが、最初から殺すつもりだったわけではないんです。前から近付いたら避けてくれると思っていて、だから田村署で亡くなったって聞いて驚いて。そう話しても認めてもらえなくて、3週間拘留されて、取り調べは夜中まで続いて、睡眠もとらせてもらえませんでした。調書も勝手に話を足されたりして、初めから殺すつもりだったとまとめられてしまったんです」

――もしあなたが、“刑務所に戻りたい”という理由ではね殺され、その後犯人から“避けられると思った”と言われたらどう思うか。

「検察側の証拠として出て来た当時現場にいた人の証言があるんですが、その人は“前からものすごいスピードでトラックが走って近付いてきて、危ないと思って避けた”と証言していました。だから避ける余裕はあったはずなんです」 

 と、被害者たちが避けられたはずだという主張を繰り返すのだ。

こんな不条理あるか

 先の影山氏が、こう嘆く。

「悪いことをした人が、国のお金で弁護士をつけて、裁判を受けて、控訴審で無期懲役になり、もし無期で刑が確定したら、この後何十年も国のお金で飲み食いして生き延びることになる。片や亡くなった被害者は、命が失われ、もう何もすることが出来ない。こんな不条理ってありますか。一審で死刑という決断を下した、裁判員の方々の深く思い悩んだ時間は一体何だったのか。被告には、極刑を望みます。自らの身をもって罪を償って欲しい」

 裁判を通じ、被害者遺族である橋本さんの妻は次のような意見を出している。

〈無期懲役だと被告人の願いがかなう。こんな不条理あるか。極刑を望む〉(一審の供述調書)

〈極刑は当然。どんなことがあっても、夫は戻って来ず、私たちはこの後も苦しみ続けます〉(一審判決後のコメント)

〈責任を転嫁していて反省がなく、一審と同じ(極刑)判決を望む〉(控訴審の意見陳述)

デイリー新潮編集部

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