ドラマ「サンクチュアリ」三つの魅力 真のヒロインは染谷将太?

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 先日、新宿三丁目のみくに丸で飲んでいたら。猿河がいた。え? 二度見する経験。猿河を演じた義江和也ご本人で、居ても立ってもいられず、ちゃっかり握手までしてもらった。とにもかくにも憎たらしい先輩力士役なのだが、最後は愛くるしいとまで思わせた熱演が印象深かった。Netflix「サンクチュアリ」の話だ。このドラマの魅力は三つ。

 主人公・小瀬清(一ノ瀬ワタル)は北九州出身、もともとは腕のいいすし屋の息子で、わんぱく相撲で優勝するほどの神童。が、借金を機に家族崩壊。父(きたろう)と母(余貴美子)は別居、荒んだ赤貧生活へ。清もけんかとカツアゲに明け暮れる日々。そんなごんたくれの清は、元大関で猿将部屋の親方(ピエール瀧)の甘い言葉に誘われて、上京を決意。

 ところが生意気かつ礼儀を重んじない清は、先輩からかわいがりの洗礼を受けて、ただただぶんむくれる。魅力その1「主人公が清くも正しくもない」である。清が無礼で非常識で最低だからこそ、物語に疾走感が生まれている。真面目で従順で強い新弟子が主人公だったらここまで面白くはならない。清の「人としての足りなさ」をワタルが茶目っ気と迫力で演じきった感。

 先輩でも親方でもお偉いさんでも、こびず・ブレず・SDGs。相手が誰であろうとフラットな清は、多様性を生まれながらに会得。そこがいい。もちろん終盤では相撲の面白さや強くなる喜びを体得し(スポ根風味の爽快感)、まっとうな力士へと成長するわけさ。

 で、そんな清に振り回される皆さんが、魅力その2「猿将部屋の面々」だ。コミカルの筆頭は義江演じる猿河ね(下半身担当とも)。清をいびりまくるが、仕返しもされているため、なんだか憎めず。逆に人格者もいる。弱小の猿将部屋を支えていたのは猿谷(澤田賢澄)。けがに泣かされ、関取復帰を諦めて引退を決意する古参力士。漢と書いておとこ。身を削って問題児の清を育てる決意と優しさ。泣いたね。妻(和田光沙)と同じ思いで泣いたね。そんな猿谷を慕うあまり、清に嫉妬する猿空(石川修平)もよかったし、超ナルシストでわが道をいく猿岳(小林圭)、気の弱い石原(菊池宇晃)や日和見な高橋(めっちゃ)もちゃんと成長していくのよ。力士役の体がどんどん変わっていくのは本当にすごい。短時間で調整した役者陣の努力に感服。

 そして魅力その3は「タブー(聖域)を描いた」点。星の貸し借りや不祥事のもみ消しなど、日本相撲協会がブチ切れそうな内容がてんこもり。担ったのは他の部屋の親方だ。いちいち猿将親方に難癖つける卑劣な犬嶋親方(松尾スズキ)と馬山親方(おむすび)、そして角界の重鎮で元横綱の龍谷親方(岸谷五朗)に至っては、タニマチがキナ臭い新興宗教の教祖っつう最凶の絶望。

 別枠で余貴美子にはMVPを。別の意味で体当たり、女優の格を見せつけたから。この連載の担当編集N氏いわく「染谷将太がヒロインでしたね」。確かに! 清を励まし支え、メガホン持って鍛錬をサポート。もはや浅倉南だったよね、将太。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年7月13日号掲載

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