藤井七冠が「八冠」へ一歩前進 勝負において“勢い”が重要な要素であることを感じさせた一番

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 6月28日、将棋会館(東京・千駄ヶ谷)で王座戦(主催・日本経済新聞社)の挑戦者を決めるトーナメントの準決勝が行われ、藤井聡太七冠(20)が羽生善治九段(52)を破り、挑戦者決定戦に進出した。次の対戦相手は7月3日に行われる同じく準決勝の渡辺明九段(39)と豊島将之九段(33)の対局の勝者で、それに勝てば史上初の八冠となる王座奪取を目指し、永瀬拓矢王座(30)に挑戦することになる。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

羽生の100期は足踏み

 勝った藤井は「(昨年までの)王座戦では振るわない成績が続いたので、今期はここまで進めてよかった。棋聖戦と王位戦の防衛戦があるので八冠は全く意識していないが、しっかり準備して挑戦者決定戦に臨みたい」と話した。3年続けてトーナメントの1回戦で敗れるなど、王座戦は藤井にとって「最も相性の悪いタイトル」だが、今期は2回戦で村田顕弘六段(36)に絶体絶命のピンチに追い込まれながら、土壇場で奇蹟的な大逆転劇を演じるなど風向きが違っている。

 一方、前人未到の「通算タイトル100期」まであと1つと迫っている羽生は、6月9日に日本将棋連盟の会長に就任した。就任以降、すでに公式戦3局目。超多忙な中での対局のせいか、大記録達成は足踏みが続く。99期のタイトルの中でも王座は24期を誇る最多。しかし、藤井に七冠に並ばれた羽生は、自らの手で若武者の八冠挑戦の可能性を阻止することはできなかった。

 羽生は「(藤井名人に)いろんな手を指され、非常に勉強になった一局だった。(タイトル通算獲得数100期の)チャンスをまた作れるように頑張りたい」と述べた。両者の対局は今年初めの王将戦七番勝負の第6局以来で、これで公式戦の対戦成績は藤井の12勝3敗となった。

互角が長く続く

 振り駒で藤井が先手番となった。双方が居飛車から早々の角交換。藤井が得意とする「角換わり」を羽生が受ける形だ。それでも羽生は「早繰り銀」で先に仕掛ける。「銀使いの名手」とされる羽生の銀が早々と「5五」にまで進出し、藤井が凌ぐ展開が続いた。羽生は飛車を4筋に回して、体制を立て直す。

 藤井は桂馬を盤の中央まで跳ねて攻撃の機を窺う。こうした状況が続く中、ABEMAのAI(人工知能)評価値は日が暮れる頃までほとんど互角。その後、やや藤井優勢が長く続いたが、午後8時過ぎからは7割ほど藤井優勢に。そこから羽生が逆転することは遂になかった。

 序盤から羽生玉は、1筋の端歩が詰められていて、遁走経路が狭められていたのが筆者には気になった。一方、藤井玉(正確には王)は、自陣に引いた馬がしっかり自玉を守っていた上、逃げ道は広く、素人目にも羽生の持ち駒では仕留められる感じではなかった。羽生は死にそうになった馬を「7七」に切って銀を取る「駒損」で戦ったが、如何せん駒不足が最後まで響いた。

 藤井は冷静に対応し、羽生陣に飛車を成り込み王手。5時間の持ち時間を使い切り1分将棋に追い込まれていた羽生はしばらく粘ったが、123手目で投了した。ABEMAで終局まで解説していたのは、棋士というよりプロレスラーかと見紛う体格の大平武洋六段(46)で、「藤井さんの玉は広く逃げられ、羽生さんが詰ますのは難しい」と早くから語っていた。

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